がん細胞の増殖と、Treg、骨髄球系細胞上のCD300a分子との関りは?
筑波大学は11月17日、マウスのがんモデルを用いて、がん細胞から分泌される細胞外小胞と呼ばれる粒子が、がん細胞周囲に集まってきた免疫細胞に取り込まれ、がん細胞の増殖を抑制することを発見したと発表した。この研究は、同大医学医療系の澁谷彰教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「eLife」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、がんの周囲に免疫細胞が集まってくることが注目されている。それらの免疫細胞には、CD8陽性T細胞などのようにがんを攻撃するものがある一方、こうした細胞の活性を抑えて、がんの増殖を促進する免疫細胞もあることが知られてきた。その代表的なものとして、制御性T細胞が知られているが、がん周囲にある制御性T細胞の活性がどのように制御されているかは、明らかになっていなかった。
研究グループはこれまでに、マクロファージや免疫細胞(樹状細胞)などの骨髄球系細胞の活性化を負に制御する免疫受容体CD300aを発見し、これがリン脂質フォスファチジルセリンの受容体であることを明らかにしていることから、今回、表面にフォスファチジルセリンが発現している特徴を持つ細胞外小胞に着目し、がん細胞から分泌される細胞外小胞とCD300aの働き、およびこれが制御性T細胞の活性に及ぼす影響について調べた。
がん細胞外小胞<樹状細胞でCD300aと結合<IFNβ抑制<Treg抑制<がん増殖阻害
はじめに、樹状細胞に発現するCD300a遺伝子を特異的に欠損するマウスの皮下に、マウス悪性黒色腫のがん細胞を移植したところ、野生型マウスに移植したがん細胞と比べて、顕著にがんが増大することを見出した。これらのマウスに、細胞外小胞の分泌を抑制する薬剤(GW4869)またはコントロールとしてPBS(リン酸緩衝生理食塩水)を投与し、同様に皮下にがん細胞を移植したところ、CD300a遺伝子欠損マウスで増大したがんは、野生型マウスに移植したがんと同程度のサイズまでに縮小した。一方、CD300a遺伝子欠損マウスのがん周囲には、野生型マウスと比べて、制御性T細胞が増加していることが明らかとなった。
さらに樹状細胞特異的CD300a遺伝子欠損マウスに、制御性T細胞を減少させる抗CD25抗体、および樹状細胞から産生されるインターフェロンベータを中和する抗インターフェロンベータ抗体をそれぞれ投与し、皮下にがん細胞を移植したところ、どちらにおいても、CD300a遺伝子欠損マウスで増大したがんは、野生型マウスに移植したがんと同程度のサイズまでに縮小した。また、がん細胞から分泌された細胞外小胞は、樹状細胞に取り込まれること、CD300a遺伝子欠損マウスの樹状細胞に細胞外小胞を加えて培養すると、野生型の樹状細胞に比べて、インターフェロンベータの産生が増加することがわかった。
以上のことから、がん細胞から分泌される細胞外小胞は、樹状細胞に取り込まれてCD300aと結合し、これがインターフェロンベータの産生を抑制することで制御性T細胞の活性を抑制し、その結果としてがんの増殖を阻害していることが明らかになった。
CD300A発現が高い悪性黒色腫患者の生存期間は、低い患者より長い
さらに、The Cancer Genome Atlas(米国国立がん研究所と米国国立がヒトゲノム研究所による、さまざまながんのゲノムや変異情報などを集約・公開するプロジェクト)のデータベースを解析した結果、ヒトの皮膚がんである悪性黒色種の患者において、CD300A(ヒトにおけるCD300a)の発現が高い患者の生存期間は、CD300Aの発現が低い患者よりも、有意に長いことを突き止めた。
今回の研究により、樹状細胞のCD300aが、がんの増殖を阻害するメカニズムが明らかになった。がん細胞から分泌される細胞外小胞やCD300Aを標的とした、がんに対する治療法の開発につながることが期待される。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL