臍帯血のDNAメチル化情報は、妊娠期間中の胎内環境を反映
東北大学は11月16日、臍帯血中の有核赤血球のDNAメチル化状態を解析し、国内外の研究者が参照できるデータベースとして公開したと発表した。この研究は、東北メディカル・メガバンク計画の一環として行われたもの。東北メディカル・メガバンク計画は、東日本大震災からの復興事業として平成23年度に開始。被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指している。東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)と岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を平成25年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備している。東北メディカル・メガバンク計画は、平成27年度より、日本医療研究開発機構(AMED)が研究支援担当機関の役割を果たしている。
画像はリリースより
ヒトを含めた哺乳類では、母体内で受精卵が発生する過程でエピジェネティックなリプログラミングが生じ、適切な時期に適切な部位で適切な遺伝子が働くように調整される。このうち胎児期や出生直後の期間に経験した環境ストレスは、児のエピジェネティックな特徴に生涯に渡って残るような変化を引き起こし、短期的および長期的な疾患発症リスク上昇につながることが指摘されている。この仮説をDOHaD仮説(Developmental Origins of Health and Disease)と呼ぶ。たとえば妊娠中の食事が制限されると、胎児は低栄養状態に晒される。その結果、児は生涯に渡って生活習慣病などを発症しやすい体質になる。こういった背景から、生体内の環境因子によって遺伝子発現が調節されるエピジェネティクスの代表であるDNAメチル化状態に注目して、胎児期の環境ストレスがもたらす影響を評価しようとする研究が世界中で行われている。
一方で、胎児の正常な成長過程でもDNAメチル化状態は大幅に変化する。したがって環境ストレスによる変化を正確に捉えるには、正常な状態で生じうる変化を把握しておく必要がある。しかしながら、研究者が在胎週数に沿った正常な変化を把握できる公開データベースはこれまで存在しなかった。
そこで東北メディカル・メガバンク計画では、岩手医科大学附属病院産婦人科を受診した妊婦、または三世代コホート調査に参加した妊婦から母児の主な周産期疾患を除外した症例を対象として、分娩時に収集した臍帯血のDNAメチル化状態を解析し、国内外の研究者が参照できるデータベースとして公開した。
有核赤血球15例と在胎週数別92例のマルチオミックスデータベースを公開
対象としたのは、有核赤血球15人の統計量と、母児の主な周産期疾患症例を除外した、妊娠31週から42週までの92例の統計量。
臍帯血有核赤血球DNAメチル化情報については、15人の臍帯血から単離した有核赤血球を用いて常染色体上に存在する約2700万か所の個人ごとのCpGのDNAメチル化率を測定し、それらの平均値と標準偏差を公開。この検体は、岩手医科大学附属病院で採取後すぐに解析を実施しており、移送や保管等により生じるバイアスを最小限に抑えている。このためバイアスを含む検体の解析値の補正に使用することができる。
在胎週数別DNAメチル化情報については、常染色体上に存在する約150万か所のCpGそれぞれについて、在胎週数2週間ごと、男女別の臍帯血DNAメチル化率の平均値と標準偏差を公開。検体は単胎妊娠のみを対象とした。この検体は三世代コホート調査により得られたものであり、移送や保管等によるバイアスが生じている可能性があるが、臍帯血有核赤血球DNAメチル化情報により補正済だ。
これらの統計情報は、IMMが管理するウェブサーバー上に構築されたiMETHYLデータベース、またはToMMoが管理するウェブサーバー上に構築されたjMorpデータベースからテキストファイルとしてダウンロードできる。さらにデータベース内に構築されたゲノムブラウザ上で閲覧することも可能だ。なお、それぞれの公開日は、iMETHYLが11月16日、jMorpが12月8日。
臍帯血DNAを用いた症例対照研究が可能に
iMETHYLおよびjMorpで公開する在胎週数別臍帯血DNAメチル化情報の要約統計量から、在胎週数に沿って変化する/変化しないゲノム領域を区別することが可能になる。また、採取直後に解析した有核赤血球のDNAメチル化情報を利用することで、検体の移送や保管等により生じる影響(バイアス)を補正し、臍帯血を対象としたさまざまな症例対照研究の実施が可能となる。同様に、有核赤血球のDNAメチル化情報の要約統計量を用いることで、症例対照研究の際に細胞組成量を補正することが可能になる。これらにより、胎児が母体内で経験するエピジェネティックな変化を推定することができる。
また今後、母体内で環境ストレスを受けた胎児のDNAメチル化状態を測定する研究が行われる際には、iMETHYLやjMorpと比較することで、さまざまな要因で変化しうるDNAメチル化サイトから、環境ストレスによって変化したDNAメチル化サイトを高精度に発見することが可能になり、環境要因による疾患発症メカニズムの解明につながることが期待される。
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・東北大学 プレスリリース