COPD、東アジア・日本人に特徴的な遺伝的背景の知見は不十分
東北大学は11月15日、慢性閉塞性肺疾患(COPD)を含む呼吸器疾患と深く関わる遺伝的バリアントを同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科呼吸器内科学分野の山田充啓講師、東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)の元池育子准教授、小島要講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」電子版に掲載されている。
COPDなどの呼吸器疾患は、世界的にも公衆衛生上の重要な課題となっている。呼吸機能検査により測定される、呼気1秒量(FEV1)やFEV1と努力性肺活量の比(FEV1/FVC)などの呼吸機能指標は、呼吸機能を評価する身体学的バイオマーカー。呼吸機能指標は、生命予後予測因子の一つであり、また、COPDを含む呼吸器疾患の診断と病状の評価に用いられている。
COPDは、呼吸器疾患の中でも、死亡者数の多い重要な疾患。COPDの発病原因として、喫煙が最も重要な原因とされているが、同じ喫煙状態でもCOPDを発病する人としない人がいるなど、遺伝的要因も大きくCOPDの発病に影響している可能性が示唆されている。
これまでに、世界中で多施設共同のGWASが実施されており、呼吸機能指標やCOPD発病リスクに有意な関連を示す遺伝子座が同定されてきている。しかし、日本を含む東アジアのCOPD患者の臨床的特徴は欧米とは異なっているにも関わらず、東アジア・日本人に特徴的な遺伝的背景の知見は不十分だった。また、呼気中の一酸化窒素濃度は、2型気道炎症の重要な指標と考えられているが、その遺伝的背景について、成人集団における大規模な解析は世界でも行われていなかった。
日本人成人集団におけるGWASを実施
今回、研究グループは、COPDを含む呼吸器疾患と深く関わる遺伝的バリアントを同定するため、日本人成人集団におけるGWASを実施。呼吸器系の状態は、呼吸機能検査を通して評価できるが、2型気道炎症は呼吸機能に影響を及ぼすため、炎症の指標(呼気一酸化窒素(FeNO))で調整することで、より精緻な呼吸機能の遺伝的背景解析が可能になると考えられる。このことから、同検討もあわせて実施。
今回の研究では、東北メディカル・メガバンク計画が推進するコホート調査の参加者のうち、肺機能検査について計測を行った約1万4,000人の地域住民コホート、および約6,000人弱の三世代コホートを対象として、FEV1やFEV1/FVC、およびFeNO値を対象にGWASを行った。
RNF5/AGER遺伝子座、FEV1/FVCと最も有意に関連
研究の結果、RNF5/AGER遺伝子座(AGER rs2070600 SNPを含む)が、FEV1/FVCと最も有意に関連しており、さらに、ToMMoの公開しているゲノムリファレンスパネルを介してAGERの他の3つの希少なミスセンス変異も同定された。
今回の解析で指摘されたFEV1/FVCと関連する遺伝子座群は、これまでの欧米主体の解析とは異なるプロファイルを示しており、気流閉塞の遺伝的背景のプロファイルには日本人特有のものがあることが判明。これに加えて今回、呼吸機能のGWASにおいて、FeNOによる調整効果についても解析し、影響は軽微であることが明らかになった。
NOS2、SPSB2、RIPOR2遺伝子をFeNO関連遺伝子として同定
今回の研究では、さらに、FeNOについて、世界でも最大の成人対象大規模GWASも実施し、3つの遺伝子(NOS2、SPSB2、RIPOR2)をFeNO関連遺伝子として同定。また、公共GWASリソースを用いた統合解析により、FeNOとアレルギー疾患、およびそのバイオマーカーである血中好酸球数には共通の遺伝的背景が存在することがわかった。
新規の治療標的分子探索へ期待
同研究では、日本人の気流閉塞に強く関連する遺伝子座と、成人の2型気道炎症の指標であるFeNOに関連する3つの遺伝子座を同定した。
本研究は、COPDや気管支喘息を含む呼吸器疾患の発症メカニズムの理解につながるもの。今後研究を進めることで、本研究で同定された遺伝子やその変異の病態における役割が明らかになり、さらには新規の治療標的分子の探索につながると考えられる、と研究グループは述べている。
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・東北大学 プレスリリース