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光で記憶を消去する技術を開発、長期記憶に睡眠が必要な理由をマウスで解明-京大ほか

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2021年11月16日 AM11:45

記憶の固定化の過程でLTPが誘導される細胞と時間を調べる技術は存在しなかった

京都大学は11月12日、イソギンチャク由来の光増感蛍光タンパク質を脳に導入し、光照射で記憶を消去することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科の後藤明弘助教、林康紀同教授、理化学研究所脳神経科学研究センターの村山正宜チームリーダー、Thomas McHughチームリーダー、大阪大学産業科学研究所の永井健治栄誉教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Science」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

記憶は海馬で短期的に保存された後、皮質で長期的に保存される。この現象は「記憶の固定化」と呼ばれるが、それを担う細胞活動は完全には解明されていなかった。記憶の細胞単位の現象として、細胞間の神経活動の伝達効率が上昇するシナプス長期増強()が知られており、LTPが誘導された細胞で記憶が形成されていると考えられている。したがって、記憶の固定化の過程でLTPが誘導される細胞と時間を調べることで、記憶がいつ、どの細胞に保持されているかがわかる。しかし、これまでにそれを調べる技術はなかった。

そこで研究グループは、LTPがいつどこで起きているかを検出する技術を開発し、それを用いて記憶の固定化中にLTPが誘導される細胞と、その時間枠を明らかにすることを目的として研究を行った。

光でLTPを消去する新規手法により、狙った場所・時間でだけLTPを消去することが可能に

研究グループは、LTPが起きる時間枠を検出するために、光によってLTPを消去する手法を開発。LTPに伴って、シナプス後部のスパインという構造が拡大するsLTP(structural LTP)が知られている。このスパインの拡大にはアクチン関連分子であるcofilinという分子が重要であるため、cofilinをCALIという手法で不活化することで、光によってsLTPとLTPを消去する技術を開発した。

さらに、イソギンチャク由来の光増感蛍光タンパク質であるSuperNovaを使用。SuperNovaは光を照射すると、活性酸素を放出し周囲のタンパク質を不活化する。この性質を利用してcofilinを不活化するとLTPが消去された。これまでにも薬剤を使ってLTPを消去する手法はあったが、光を使う同技術により、狙った場所・時間でだけLTPを消去することが初めて可能となった。

段階的なLTPで海馬に短期的な記憶が形成され、長期的に保存される記憶は学習翌日に皮質へ移行し始めていた

同技術を用いて、マウスの学習直後、あるいは学習後の睡眠中の海馬に光を照射したところ、それぞれで記憶が消去された。これは、学習直後とその後の睡眠において、2段階のLTPが海馬で起きていたことを示しており、その段階的なLTPによって海馬で短期的な記憶が形成されることを明らかにした。

次に、カルシウムイメージングによって細胞の活性を観察したところ、学習直後のLTPにより細胞は学習空間特異的に発火するようになり、さらにその後の睡眠中のLTPによって細胞同士が同期して発火するようになることを見出した。これまでにも、記憶を担う細胞群(セルアセンブリ)は、同期あるいは相関した発火を示すことが知られており、この発見により、記憶を担う細胞が形成される過程をより詳細に見ることができたという。さらに記憶が皮質に移る時間枠を知るために、前帯状皮質でのLTP時間枠を調べたところ、学習の翌日の睡眠中に前帯状皮質でLTPが誘導されていることが判明。つまり、長期的に保存されるための記憶は学習の翌日には、すでに皮質に移行し始めていることがわかったという。

記憶に関与する脳機能の細胞レベルでの解明、発達障害や認知症、うつ病などの治療法につながる可能性

今回の研究により、LTPが誘導される時間枠を解析する技術が開発された。LTPは海馬と皮質だけではなく、記憶に関与した多くの脳領域で共通した記憶形成のメカニズムだ。したがって、同技術は記憶に関与する多くの脳機能を細胞レベルで解明することができる可能性を持っている。また、記憶を長期的に保持するという生活に重要な脳機能を理解することは、社会における記憶へのより良い理解につながると思われる。

「LTPに関わるシナプスの異常は、発達障害、外傷後ストレス障害()、認知症、アルツハイマー病などの記憶・学習障害だけではなく、統合失調症やうつ病の発症にも関与することが示唆されているため、本研究で得られた知見が、それらの治療法に広くつながることも期待される」と、研究グループは述べている。

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