医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新たな遺伝性難病「Ikegawa型大理石骨病」を発見、原因遺伝子も同定-理研ほか

新たな遺伝性難病「Ikegawa型大理石骨病」を発見、原因遺伝子も同定-理研ほか

読了時間:約 3分21秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年11月15日 AM11:00

頭蓋骨肥厚、脊椎の一様な骨濃度上昇などが認められる新規の大理石骨病症例

(理研)は11月11日、新たなタイプの骨の遺伝性難病、「Ikegawa型大理石骨病(osteopetrosis,Ikegawa type)」を発見し、その原因遺伝子SLC4A2を同定したと発表した。この研究は、理研生命医科学研究センター骨関節疾患研究チームの池川志郎チームリーダー、郭竜副チームリーダー、薛婧怡大学院生リサーチ・アソシエイトらの共同研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Bone and Mineral Research」に掲載されている。


画像はリリースより

骨や関節をはじめとする運動器には、多くの遺伝性難病がある。池川チームリーダーらは、運動器の遺伝性難病の原因遺伝子の同定を出発点に、原因遺伝子とその変異の機能解析を通じて画期的な診断法・治療法を開発するとともに、骨格・運動器の成長・発達・維持のメカニズムを解明することを目指している。これまでに30の運動器疾患の原因遺伝子を世界に先駆けて発見し、その分子病態を明らかにしてきた。

池川チームリーダーは、運動器の遺伝性難病の医療と研究のために、骨系統疾患コンソーシアムを設立し、骨格・運動器の遺伝性難病の症例、およびその臨床データを数多く収集してきた。その中からこれまで知られていないタイプの大理石骨病の患者を発見した。この患者には、頭蓋骨の肥厚、脊椎の一様な骨濃度の上昇、骨盤の辺縁の骨硬化、長管骨と短管骨の骨幹部の皮質の拡大などの特徴的な異常が認められた。このような骨格異常の組み合わせは過去に報告がなく、新たな疾患であると考えられた。そこで、研究グループはこの疾患を「Ikegawa型大理石骨病(osteopetrosis, Ikegawa type)」と名付け、その未知の原因遺伝子の同定に挑んだ。

SLC4A2遺伝子に複合ヘテロ接合体として2つの変異を発見

研究グループは、全エクソームシーケンス解析によりこの患者の遺伝子変異を探索し、患者はSLC4A2遺伝子上に変異と思われる塩基配列の変化を2つ持つことを発見。(Solute carrier 4A2:別名AE2)は、細胞膜に存在するイオンチャンルのタンパク質で、細胞内に塩化物イオン(Cl-)を取り込み、細胞外に炭酸水素イオン(HCO3-)を排出する働きをしている。

SLC4A2遺伝子の変異体はこれまでにマウスやウシでは報告があったが、ヒトの疾患との関係は知られていなかった。患者は、c.556G>A [p.Ala186Thr] と c.1658T>C [p.Val553Ala]の2つの塩基配列の変化を持っていた。家族の遺伝子解析の結果、患者はSLC4A2遺伝子の両方のアレルに変異を持つ複合ヘテロ接合体であることがわかった。

2つとも機能喪失変異、破骨細胞の機能阻害で骨量が異常増加

そこで、この2つの変異の機能解析を行った。遺伝子導入実験によるSLC4A2変異体(p.Ala186Thrとp.Val553Ala)の細胞内へのCl-の輸送能は、野生型に比べ、有意に低下していた。また、CRISPR-CAS9によるゲノム編集により、マウスの破骨細胞前駆細胞の株化細胞であるRAW264.7細胞からSlc4a2遺伝子のノックアウト細胞(KO細胞)を作製し、ノックアウト・レスキューを行ったところ、SLC4A2変異体を導入してもKO細胞は破骨細胞に分化できなかった。さらに、蛍光抗体法およびピットアッセイにより、SLC4A2変異体を導入したKO細胞では、異常なポドソームベルトの形成を伴う骨吸収障害があると判明。(podosome)は、マクロファージ、、樹状細胞などの単球由来細胞、血管内皮細胞、平滑筋細胞などが形成する突起状の構造物を言う。これらの結果から、2つの変異はいずれもSLC4A2遺伝子の機能を喪失する変異であることが明らかになった。

SLC4A2は、マクロファージ/単球系の細胞の細胞膜に分布している。破骨細胞の分化過程では、SLC4A2の発現が上昇し、細胞内のCl-が増加するため、pHが低下する。細胞内pHが低下すると、pH感受性システインプロテアーゼが活性化し、突起状のポドソームの分解が調節される。これにより、ポドソームリングやポドソームベルトの形成が進み、破骨細胞前駆細胞から破骨細胞への分化が促進されると考えらえている。従って、SLC4A2の機能不全により、「骨を消化して減らす」という破骨細胞の機能が阻害され、異常に骨量が増した、新たなタイプの大理石骨病が発症すると考えられた。

骨系統疾患コンソーシアムの収集データから今後も新たな疾患と原因遺伝子発見に期待

破骨細胞の発生・分化の過程にSLC4A2がどのように関わっているのかは、これまでよくわかっていなかった。今回の発見をもとに、ヒト破骨細胞の分化の制御機構の解明が進展することが期待される。

骨系統疾患コンソーシアムが収集した骨格・運動器の遺伝性難病の臨床データベースには、いまだ知られていない数多くの疾患が存在する。次世代シーケンサーを駆使した大規模シーケンス解析により、新たな希少遺伝病・難病とその原因遺伝子のさらなる発見が期待できる。「原因遺伝子が発見されれば、その遺伝子と遺伝子変異の機能解析により、疾患の分子病態の解明が進み、医学としてはその疾患の画期的な治療法・予防法の開発が、科学としては新たな生命機構の発見、解明が進むと考えられる」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • トイレは「ふた閉め洗浄」でもエアロゾルは漏れる、その飛距離が判明-産総研ほか
  • AYA世代の乳がん特異的な生物学的特徴を明らかに-横浜市大ほか
  • 小児白血病、NPM1融合遺伝子による誘導機序と有効な阻害剤が判明-東大
  • 抗血栓薬内服患者の脳出血重症化リスク、3種の薬剤別に解明-国循
  • 膠原病に伴う間質性肺疾患の免疫異常を解明、BALF解析で-京都府医大ほか