アジュバント活用が検討されている、抗酸菌の主要分泌抗原Ag85Bに着目
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は11月8日、アジュバント分子組み込み弱毒ウイルスを用いて、エイズウイルスを生体内から完全に排除することに成功したと発表した。この研究は、同霊長類医科学研究センターの保富康宏センター長ら、日本BCG研究所の研究グループによるもの。研究成果は、「NPJ(Nature Partner Journal)Vaccines」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
現在までの報告で、エイズウイルスのnef遺伝子を取り除いたエイズウイルスは弱毒になることが知られている。このnef遺伝子欠損弱毒エイズウイルスは、遺伝子欠損によりウイルス複製能が低下し、安全性が高まり、弱毒エイズ生ワクチンとして期待されたが、強毒株に対する感染防御効果がなく、ワクチンとしての効果はなかった。その後、遺伝子欠損部位にサイトカイン遺伝子を組み込んだサイトカイン遺伝子組み込み弱毒エイズウイルスが開発されたが、その効果についても十分な結果は得られなかった。
近年、弱毒ワクチンや不活化ワクチンの免疫増強効果を高めるため、アジュバントの活用が検討されており、抗酸菌の主要分泌抗原であるAg85Bが、Th1型免疫応答を効果的に誘導する新規のアジュバントになりうることが報告されている。
今回の研究ではnef遺伝子欠損弱毒エイズウイルスにアジュバント分子Ag85Bを組み込んだアジュバント分子組み込み弱毒エイズウイルスを構築し、このウイルスのワクチンとしての免疫応答および感染防御効果についてカニクイザルを用いて検討した。
強毒株制御の個体、多くは強毒株SHIV不検出を認め、生体内からウイルス完全排除
nef遺伝子欠損弱毒エイズウイルス(SHIV-NI)の遺伝子欠損部位にAg85B遺伝子を組み込んだAg85B発現弱毒エイズウイルス(SHIV-Ag85B)を構築。SHIV-Ag85Bはカニクイザルに接種後、感染初期において血漿中のウイルス量およびプロウイルスが検出限界以下となった。
また、アジュバントAg85Bの免疫増強効果により、強力な細胞性免疫を誘導。防御効果を解析するため強毒株SHIV89.6Pの攻撃接種試験を行ったところ、SHIV-Ag85Bを接種したカニクイザルは長期間、強毒株SHIVを完全に制御した。また、強毒株を制御した個体の多くは、健常カニクイザルを用いた細胞移入試験やCD8抗体投与試験において、強毒株SHIVの不検出を認め、ウイルスが生体内から完全に排除されることを明らかにした。
強毒株SHIVを制御した個体の免疫応答を解析したところ、攻撃接種後初期に抗原特異的マルチサイトカイン(IFN-γ、TNF-α、IL-2)産生CD8+T細胞の強い誘導を確認した。
以上の結果から、ウイルスに組み込んだアジュバントAg85Bによる細胞性免疫の増強効果を明らかにした。また、この免疫反応によって強毒株SHIVが生体内から完全排除されることを確認した。
新規エイズ治療薬やワクチン開発の進展に期待
今回の研究成果は、感染個体からエイズウイルスを消失させたことから、今後、エイズ治癒を目的とした新たな治療薬やワクチン開発の進展につながることが期待される、と研究グループは述べている。