一般的なADより若齢でAβ蓄積が始まり、65歳以前の発症者も多い
同志社大学は11月9日、家族性アルツハイマー病の患者では、遺伝子変異を原因とした特殊なアミロイドβ43産生経路が増加すること、さらに、発症年齢が早いほどアミロイドβ43の産生量が多くなることを患者由来の検体および患者の遺伝子変異を導入した培養細胞を用いて発見したと発表した。この研究は、同大生命医科学部の角田伸人助教らと、大阪大学医学部精神医学教室の大河内正康講師、新潟大学脳研究所遺伝子機能解析学分野の春日健作助教、池内健教授との共同研究によるもの。研究成果は、「Translational Psychiatry」に掲載されている。
画像はリリースより
厚生労働省の予測では、認知症のうち7割を占めるアルツハイマー病(AD)の日本国内の患者数は、2025年におよそ500万人にも上るとされている。ADの原因となるアミロイドβ(Aβ)は認知機能が正常な時期からゆっくりと脳内に蓄積し、10年以上の時間をかけて蓄積量が一定を超えるとADを発症する。一般的なAD患者は遺伝子を見ても健常なヒトと違いはなく、Aβが蓄積する原因はまだ解明されていない。
一方、生まれつきAβ産生に関わる遺伝子変異をもつAD患者も存在する。その割合はAD患者全体の1%以下と極めて少なく「家族性AD」と呼ばれる。家族性AD患者では、一般的なADよりも早い年齢でAβの蓄積が始まり、65歳以前に発症する人も多くいる。また蓄積するAβの種類にも違いがあり、一般的なAD患者では「Aβ42」が多いのに対し、家族性AD患者では43アミノ酸残基の「Aβ43」が多いのが特徴だ。
家族性ADでは遺伝子変異に基づいた特殊なアミロイドβ43産生経路が発生
研究グループは今回、患者由来の検体および患者の遺伝子変異を導入した培養細胞を用いて、Aβ43が多く産生される仕組みや原因を追究した。過去に研究グループは、認知機能が正常な人と、軽度認知障害(MCI)およびAD患者から採取した脳脊髄液(CSF)や剖検脳を用いて解析した結果、Aβを作り出す酵素(γsecretase)の活性がそれぞれ異なることを発見していた。研究ではこの結果をもとに、家族性ADのAβ産生についてさらに検討した。
まず、家族性AD患者より採取したCSFを測定した結果、いくつかの検体で高濃度のAβ43がみられた。この結果は家族性ADの遺伝子変異をもつγ-secretase(酵素)を発現させた培養細胞でも再現された。γ-secretaseによってAβが規則的に産生される経路は主に2パターン存在する。それぞれの経路では、ハサミの役目をするγ-secretaseにより、アミノ酸配列の長いAβから短いAβが産生される。上記の培養細胞を用いて、この規則性について解析したところ、遺伝子変異のない場合と比較して、通常のAβ産生にみられる規則性に異常は見られなかった。
ところが家族性ADの遺伝子変異をもつ培養細胞内では、一部のAβ産生経路が違っており、片方のAβ産生経路からもう一方へと経路が大きく変わっていることが判明した。さらに重要な点として、発症年齢が早期であるほどこの経路が変更される割合が多く、その結果、A β43が多く産生されることがわかった。
今回の研究から、家族性AD患者では発症年齢が若いほど遺伝子変異によるAβ43の産生量が多いこと、その詳細な機序が初めて明らかになるという重要な成果が得られた。
今後は「発症するまで認知機能が正常な理由」の解明へ
家族性AD患者では、生まれつき遺伝子変異を持つために、生後すぐから徐々に今回明らかになったようなAβ産生の変化が起こる。しかし、重要な課題として、発症するまで認知機能が正常である理由が、Aβが蓄積するまでに時間を要するためなのか、それともある時期に蓄積を防御するシステムが破綻するためなのかという点はまだわかっていない。「今後、培養細胞やモデル動物を用いてその原因を明らかにすることで、これまでとは異なった新たな治療法や予防法の確立を目指す」と、研究グループは述べている。
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