入院契機疾患・直接死亡原因の不一致率、DPC解析で全国規模調査を初めて実施
東京医科歯科大学は11月4日、全国規模の入院データ解析により、入院契機疾患・直接死亡原因の不一致の実態を初めて明らかにし、腎臓病による不一致率増加と背景の複雑病態を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科腎臓内科学分野(茨城県腎臓疾患地域医療学寄附講座教授)の頼建光教授、同腎臓内科学分野(東京医科歯科大学病院血液浄化療法部助教)の萬代新太郎助教、大学院医歯学総合研究科医療政策情報学分野の伏見清秀教授の研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は、糖尿病、高血圧症に代表されるさまざまな疾患で発症し、1300万人を超える日本国民が罹患していると推計される。自覚症状が現れにくく、静かに進行するため、血液や尿検査を行わないと診断できないことが通常だ。CKDが進行すると、末期腎不全となり透析療法を必要とするだけでなく、心筋梗塞、脳卒中、高血圧や感染症、サルコペニア(骨格筋の萎縮と筋力低下)に罹患しやすくなることがわかってきた。このようにCKDはさまざまな疾患が悪化する背景に潜んでおり、病態が複雑化することで、入院リスクの増加、多剤の内服薬服用につながる可能性が指摘されている。
特に、急性期の入院医療現場では、入院時点ですべての複雑な併存症を診断することが難しいことも多く、入院後の検査によって正確な病名診断を進めていく必要がある。また、入院後に発生、悪化する病態も存在するため、日頃多くの診療医が入院契機疾患と直接死亡原因の不一致を経験する。しかし、それを示した客観的データはこれまでになく、全国規模の本実態調査により初めて明らかになった。
今回の研究では、日本のDPC(Diagnostic Procedure Combination)入院データベースを解析することで、入院契機疾患・直接死亡原因の不一致率の全国規模の実態調査を初めて実施。病名不一致に関わる基礎疾患や因子を解析することを目的とした。全国8,000以上の病院施設のうち、DPC調査参加病院は5,000病院を超え、現在60%を超える入院症例を網羅している。同研究は2012~2015年の4年間で、約64万人の解析を行った。
病名不一致率は年々低下、入院時の診断精度は全国的に向上
解析の結果、非CKD患者においても入院契機疾患・直接死亡原因のICD-10病名コードの平均不一致率は25.7%と高い水準だった。これがCKD、透析療法を要する末期腎不全患者においてはさらに上昇し、それぞれ30.3%、41.6%に増加した。
また、いずれのグループにおいても、病院施設規模の大小にあまり影響されず、診療医のDPC病名登録行動や入院時の診断精度は、日本国内で概ね均一の水準であることが明らかになった。また、観察した4年間の間に病名不一致率は年々低下しており、入院時の診断精度が全国的に向上したことがわかった。
病名不一致に関わる基礎疾患や因子をロジスティック回帰分析で解析すると、年齢増加、男性、BMI(body mass index)の増加、緊急入院、基礎疾患合併スコアの増加が関連することが判明。基礎疾患の中でも、CKD、末期腎不全が強力に影響することが明らかになった。
CKD、末期腎不全でリスク高の疾患変遷が可視化
続いて、非CKD患者では日本の一般統計と同様にがんで死亡する患者数が最も多いことがわかった。それに対しCKD、末期腎不全においては心血管病やうっ血性心不全、感染症による死亡率の増加が目立った。
そして入院時と異なる疾患カテゴリーに移行する割合が多いことがわかり、CKD、末期腎不全でリスクの高い疾患変遷が可視化された。ロジスティック回帰分析を行うと、特にCKDではうっ血性心不全への移行、末期腎不全では感染症への移行が多いことがそれぞれ判明。この病名不一致により、いずれのグループでも在院日数の増加、診療費用の増加が確認された。
病名不一致の是正が救命率改善に直接つながるものではない
今回の研究では、日頃、診療医が経験する入院契機疾患・直接死亡原因の不一致を、全国規模の実態調査で初めて明らかにした。従来指摘されてきた、CKDの複雑病態、特徴的な入院中の疾患変遷を可視化することができたとしている。
なお、同研究結果を解釈する上で注意しなくてはならない点は、救命し得なかった実症例の後方視的研究であることだ。必ずしも、病名不一致が入院診療の質を反映するものではなく、不一致を是正することが救命率の改善に直接つながるものではないとしている。
しかし、CKDが他の疾患に増して、病名不一致、複雑病態を招きうる知見は、腎機能が低下し始めた早期から、食事・運動療法、薬物治療を含めた集学的診療の開始が重要であることを再認識させる重要な結果と考えられ、CKDの最適な治療戦略を見出すことに寄与する可能性がある、と研究グループは述べている。
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