MetS構成因子を複数保有するリスク要因を「非肥満者」と「肥満者」で分析
筑波大学は11月1日、日本人の特定健康診査データ(4万7,172人、40〜64歳)を用いて、非肥満者と肥満者それぞれについて、メタボリックシンドローム(MetS)構成因子を複数保有するリスク要因を検討した結果を発表した。この研究は、同大体育系の武田 文教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Preventive Medicine」に掲載されている。
画像はリリースより
MetSは、心疾患や脳血管疾患などの循環器疾患を発症させる危険因子が重複した病態を指す。その定義は国や機関によって異なるが、日本では内臓脂肪蓄積を重視する観点から腹部肥満を必須とし、加えて高血圧、高血糖、脂質異常のいずれか(以下、MetS構成因子)を複数保有する状態をMetSと定義している。そして、40〜74歳を対象に特定健康診査を行い、体格指数BMI(体重kg/身長m²)と腹囲で肥満者を判定し、肥満者がMetS構成因子を複数保有する場合には、生活習慣の改善を積極的に支援する特定保健指導を実施している。しかし、非肥満者は対象外となっている。
その一方で、非肥満者でも、MetS構成因子を複数保有していると循環器疾患の死亡率や発症率が高いことが多くの研究で報告されている。非肥満者についてもMetS構成因子を複数保有する状態の改善や予防対策が必要だ。ところが、これまで非肥満者がMetS構成因子を複数保有することに関係する要因については、十分明らかにされていなかった。そこで今回研究グループは、日本の製造業5社の健康保険組合の特定健康診査のデータを非肥満者と肥満者に分けて解析し、それぞれの群についてMetS構成因子を複数保有することに関係する要因は何かを分析した。
どちらの群でも、加齢、男性、喫煙、歩行速度や食べる速さなどがリスク因子に
製造業5社の健康保険組合が実施した2015年の特定健康診査の受診者のうち、体重、身長、血圧、血糖、脂質に関する検査値、属性(性別・年齢)、20歳時から10kg以上の体重増加および生活習慣に関するデータに欠損のない4万7,172人分(40歳以上64歳以下)を分析対象とした。
肥満およびMetS構成因子(高血圧、高血糖、脂質異常)の判定基準は、「標準的な健診・保健指導プログラム」(厚生労働省)に基づいた。また問診票データから、20歳時から10kg以上の体重増加および生活習慣(喫煙、定期的な運動、身体活動、歩行速度、食べる速さ、就寝前の食事、夕食後の間食(夜食)、朝食の欠食、飲酒の頻度、1日あたりの飲酒量、睡眠による休息)についての回答結果を用いた。
「非肥満者」(2万8,720人)、「肥満者」(1万8,452人)の群ごとにMetS構成因子の複数保有(MetS≦1:0,MetS≧2:1)と属性、20歳時から10kg以上の体重増加、生活習慣との関係を多重ロジスティック回帰分析(強制投入法)により分析した。その結果、両群ともにMetS構成因子の複数保有は、性別(男性)、年齢、20歳時から10kg以上の体重増加、喫煙、歩行速度の遅さ、食べる速さ、1日あたりの飲酒量の多さと正の関係を、夕食後の間食や飲酒の頻度と負の関係を認めた。リスク要因のオッズ比(OR)は、非肥満者が肥満者より高い傾向にあり、特に50代(非肥満OR 3.09、肥満 OR 1.88)および60~64歳(非肥満OR 5.93、肥満 OR 2.81)、男性(非肥満 OR 2.67、肥満 OR 1.91)、1日あたりの飲酒量「2~3合未満」(非肥満 OR 1.81、肥満 OR 1.44)および「3合以上」(非肥満 OR 2.50、肥満 OR 1.52)、20歳時から10kg以上の体重増加(非肥満 OR 1.67、肥満 OR 1. 45)において比較的高いオッズ比がみられたという。
定期的な運動の欠如は、肥満者のみでMetS構成因子の複数保有と正の関係
一方、定期的な運動の欠如は、「肥満者」群のみでMetS構成因子の複数保有と正の関係を認めた。したがって、非肥満者におけるMetS構成因子の複数保有のリスク要因は、加齢、性別(男性)、20歳時から10kg以上の体重増加、喫煙、歩行速度が遅いこと、食べる速度が速いこと、1日あたりの飲酒量が多いことであり、これらの要因はいずれも肥満者と共通することが明らかとなった。また、非肥満者は肥満者よりも、加齢、男性、1日あたりの飲酒量が多いこと、20歳時から10kg以上の体重増加が、高リスク要因であることが示唆された。
MetS構成因子複数保有者への保健指導、若年層の痩せ体型の男性に対する健康教育が必要
今回の研究成果により、非肥満者のMetS構成因子の複数保有のリスク要因は肥満者と共通していることが明らかにされた。ただし、非肥満者は肥満者に比べて加齢および男性であることのリスクが高いことに注意が必要で、1日あたり多量の飲酒と若年期からの大幅な体重増加を回避することが重要だと考えられる。
「今後、生涯を通じた健康づくりと生活習慣病の予防に向けて、肥満の有無にかかわらず、MetS構成因子を複数保有する者への保健指導、ならびに40歳未満の若年層を対象に痩せ体型の男性の体重管理や適切な飲酒量に関する健康教育を実施していくことが望まれる」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL