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ファンコニ貧血、新たに「ユビキチン化酵素RNF168」の関連を発見-京大

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2021年11月02日 AM11:00

ファンコニ貧血の原因遺伝子SLX4、正常な機能を保つメカニズムは?

京都大学は10月28日、ファンコニ貧血の原因遺伝子SLX4が正常に機能するために不可欠のタンパク質RNF168を新たに同定したと発表した。この研究は、同大生命科学研究科の髙田穰教授、勝木陽子特定講師、安倍昌子研究員(研究当時)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Reports」に掲載されている。


画像はリリースより

遺伝性の再生不良性貧血は重症の難病で、「」は最も有名かつ頻度の高い原因疾患。有効な治療法は骨髄移植しかなく、高い確率で白血病、固形がんを併発するなど、医学、生命科学の分野で解明が必要とされる研究課題だ。ファンコニ貧血の原因遺伝子の一つSLX4/FANCPは、造血分化の際に生じる「クロスリンク」というタイプのDNAの傷()を修復する分子機構で働いている。SLX4の変異により、この機構が正常に機能しなくなると、DNAの傷が正しく修復されずに「ゲノムの不安定性」が生じ、造血分化が障害されて「」を発症する。

SLX4は「」とよばれるタンパク質に結合するアミノ酸配列(UBZ4ドメイン)を使ってDNAの傷を認識するが、ファンコニ貧血の患者では、この配列が失われる変異が見つかっている。したがって、SLX4がDNA損傷付近にある「ユビキチン化」されたタンパク質と結合することが、傷を修復しゲノムを安定化して、病気の発症を抑えるために必要だと考えられるが、そのメカニズムの解明は進んでいなかった。

DNAに傷ができると、ユビキチンタンパク質がDNA損傷の周りの標的タンパク質(基質)に目印のように結合することが知られている。SLX4はこのユビキチンが複数連結した「」に結合するという証拠があるが、一方、これまでの研究では、ユビキチンが1つだけ結合した「モノユビキチン化」FANCD2(ファンコニ貧血の他の重要な原因遺伝子)にくっつく、と主張する説が有力であり、議論が続いてきた。この議論に決着をつけるため、研究グループは、今回の研究計画を立案した。

RNF168がSLX4のDNA損傷への結合と正常な修復機能に必要

研究グループは、「クロスリンク」タイプのDNAの傷に集まるSLX4を蛍光顕微鏡によって観察可能にするため、ユビキチン結合モチーフを含む部分的なアミノ酸配列を、蛍光タンパク質であるGFP(green fluorescent protein)と融合させた。SLX4のようなDNA修復タンパク質は、薬剤などによってDNAに傷ができると、「核内フォーカス」とよばれる集合体を形成することがわかっている。ユビキチン結合配列に変異があると、SLX4はクロスリンクタイプの傷に集まることができない。このような集合体が核内に認められるかどうかを指標に、siRNAライブラリースクリーニングとよばれる方法を用いて、さまざまな遺伝子の発現を1種類ずつ網羅的に抑制することで、SLX4がクロスリンクタイプの傷に集まるために必要な「ユビキチン化酵素」を探索した。

600種類程度の遺伝子をそれぞれ抑制した実験の結果、RNF168酵素とその関連タンパク質が、SLX4の集合体の形成による正常な機能に必要であり、両者は協調して同じ分子経路で働いていることを発見。前述のように、これまでSLX4は、「FANCD2」をはじめとするファンコニ貧血の他の原因遺伝子群からなる「ファンコニ貧血経路」によってDNAの傷に集まるのではないか、特に「ユビキチン化」されたFANCD2めがけて集まるのではないか、との説が主流となっていた。今回の結果から、クロスリンクタイプのDNA損傷の修復機構として、従来確立しているファンコニ貧血経路に加えて、SLX4の傷の認識を司る新たな経路の存在が浮かび上がった。

ユビキチン化のターゲットを探索し、造血分化メカニズムの解明へ

今回の研究で、これまではファンコニ貧血との関与が知られていなかったRNF168と、いくつかの関連タンパク質がSLX4の機能に必要であることが明らかになった。一部のファンコニ貧血患者で、SLX4のユビキチン結合配列を失う変異が見つかっていることから、この作用機構が病気の発症抑制に重要であることは明らかだ。一方RNF168はほかの遺伝性疾患の原因遺伝子としても知られているが、その臨床症状はファンコニ貧血との類似点がなく、どのようなメカニズムが働いて異なる病気を発症するのか、現時点では不明。また、RNF168は直接的にSLX4が結合するポリユビキチン鎖をつくるのか、別のユビキチン化酵素を介しているのか、ユビキチン化されSLX4が結合する標的タンパク質(基質)は何か等、複数の課題が残っている。特に、SLX4が結合するユビキチン化されたタンパク質(基質)を同定することは重要だ。研究グループは、今後これらに取り組み、造血分化におけるゲノム安定性の分子メカニズムをさらに明らかにしたい考えを示している。

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