VATER症候群の発症メカニズム解明と治療法開発のためにモデルマウスが必要
東京慈恵会医科大学は10月28日、Dyrk2遺伝子を欠損させたマウスを新たに作製して解析を進めたところ、国の指定難病であるVATER症候群と類似した病態を示すことを発見したと発表した。この研究は、同大生化学講座の與五沢里美講師、吉田清嗣教授、理化学研究所生命機能科学研究センター呼吸器形成研究チームの森本充チームリーダー、群馬大学 生体調節研究所ゲノム科学リソース分野の堀居拓郎准教授、畑田出穂教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Communications Biology」に掲載されている。
画像はリリースより
VATER症候群は、V=椎体異常、A=肛門奇形、TE=気管食道瘻、R=橈骨奇形および腎奇形という5徴候の頭文字の組み合わせで命名されており、多発奇形を伴う国の指定難病の一つ。上記の5徴候に加えて、C=心奇形、L=四肢奇形が合併することもあり、この場合、VACTERL連合と称する。しかし、その発症メカニズムと効果的な治療方法は確立されておらず、外科的治療、リハビリなど対症療法のみであり、生涯にわたり、合併症ごとの継続的な治療とリハビリが必要となる。したがって、VATER症候群の発症メカニズムの解明と新たな治療法の開発が急務となっており、その研究に役立つモデルマウスの作製が期待されている。
Dyrk2欠損マウスを作製、VATER 症候群の病態と類似
研究グループは、これまでがん細胞の増殖、転移などを抑制する癌抑制因子として働くリン酸化酵素「Dyrk2」の機能解明を行っており、今回、マウス個体レベルにおける生理的機能を明らかにするため、CRISPR/Cas9ゲノム編集法を用いてDyrk2欠損マウスを作製し、その表現型と疾患との関連性について解析を進めた。すると、Dyrk2欠損マウスは、出生直前の胎生18.5日目までは生存していたが、出生直後に呼吸不全を引き起こし、致死となることがわかった。そこで、Dyrk2欠損マウスの胎生期の解析を行ったところ、Dyrk2欠損胎児は、椎体異常、肛門奇形、心血管異常、気管食道異常、腎奇形、橈骨奇形、四肢奇形、肺形成異常の表現型を認め、VATER 症候群の病態と類似することを新たに発見した。
Dyrk2はShh-Foxf1発現制御を介して発生初期の肺形成、特に気管支形成に働く
そこで研究グループは、Dyrk2欠損マウスにおける呼吸不全の原因を明らかにするため、肺形成におけるDyrk2の機能を解析。まず、肺におけるDyrk2の発現を調べたところ、Dyrk2は、胎生11.5日目の肺において気管上皮細胞に発現しており、特に、胎生18.5日目の肺において、気管上皮細胞の一種である繊毛細胞に発現していることがわかった。このことから、Dyrk2は、肺形成を通して気管上皮に発現していることがわかった。
次に、Dyrk2欠損マウスの肺発生初期の異常を調べたところ、胎生11.5日目のDyrk2欠損肺において、気管支の分岐異常と間葉に発現しているFoxf1の濃度勾配の消失が認められた。さらにDyrk2欠損肺の気相-液相界面培養系において、Shhシグナルを活性化するとFoxf1と下流遺伝子発現の回復が認められた。このことから、Dyrk2は、Shh-Foxf1シグナルを介して肺形成に働くことが明らかとなった。
VATER症候群の病態・発症メカニズムを解明する有用なモデルとなる可能性
今回の研究から、Dyrk2がさまざまな組織の形態形成に重要な役割に担う分子であること、特に気管支の分枝構造の形成に寄与することが新しく発見された。Dyrk2欠損マウスは今後、VATER症候群の病態・発症メカニズムを解明する有用なモデルとなる可能性があり、同疾患の診断法・治療法の開発につながることが期待される。
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