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Reelinの投与で統合失調症モデルマウスの過剰な神経活動が抑制-名大ほか

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2021年11月01日 AM11:45

Reelinの投与で統合失調症の認知機能障害などが改善することはわかっていたが、メカニズムは不明だった

名古屋大学は10月29日、統合失調症モデルマウスを用いてReelinの認知記憶改善作用に前頭前皮質が重要であること、そのメカニズムとして過剰な神経活動を抑制する可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科医療薬学の澤幡雅仁特任助教(現・富山大学助教)、永井拓准教授(現・藤田医科大学教授)、山田清文教授、藤田医科大学大学院保健学研究科の鍋島俊隆客員教授、名古屋市立大学大学院薬学研究科病態生化学の服部光治教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Pharmacological Research」に掲載されている。


画像はリリースより

統合失調症は幻覚、妄想などの陽性症状、意欲の低下などの陰性症状、認知機能障害を主症状とし、罹患率は約1%と頻度の高い精神疾患。現在、治療に用いられている抗精神病薬は、主にドパミンやセロトニンなどの神経伝達物質の受容体を遮断することにより効果を発揮する。しかし、錐体外路症状などの重篤な副作用の発現や治療抵抗性などの問題から、作用機序の異なる治療薬の創製が期待されている。

Reelinは分泌性糖タンパク質であり、発達期においては正常な脳形成、成熟期では神経可塑性や認知機能に関与することが知られている。また、統合失調症患者の遺伝子解析などにより、Reelin遺伝子の変異あるいはmRNAやタンパク質レベルでのReelin発現量の低下が見られることから、Reelinの機能低下と統合失調症病態との関連性が考えられていた。また、Reelinタンパク質をマウスの脳室内に微量注入することで統合失調症モデルマウスの認知機能障害などが改善することが報告されているが、そのメカニズムについては不明であり、Reelinシグナルを標的とした統合失調症の新規治療法開発における課題の一つだった。

Reelinの認知記憶改善作用には前頭前皮質が重要

前頭前皮質は統合失調症患者で病的な変化が見られる脳領域であり、病態との関連が強く示唆されている。そこで研究グループは、統合失調症のグルタミン酸仮説に基づき、グルタミン酸受容体の非競合的拮抗薬であるMK-801を処置した統合失調症モデルマウスの前頭前皮質にReelinタンパク質を微量注入し、行動学的解析を行った。新奇物体認識試験を行った結果、前頭前皮質へのReelinタンパク質の微量注入により、統合失調症モデルマウスの新奇物体認識の障害が有意に改善した。一方、プレパルス抑制試験、Y字迷路試験では変化がなかったという。同研究グループをはじめとする過去の報告から、Reelinの脳室内投与により認知機能、感覚情報処理能力障害が改善することが示唆されている。今回の結果は、前頭前皮質への局所投与によるものであることから、Reelinの認知記憶改善作用において前頭前皮質が重要であり、感覚情報処理能力や作業記憶の改善には、前頭前皮質以外の脳領域も重要であることを示していると考えられた。

また、ReelinはADAMTS-3などの分解酵素により失活することが報告されているため、分解抵抗性のReelin(PDDK変異体)の効果も同時に調べたが、その効果は野生型Reelinと同程度だったという。Reelinは受容体と結合し、下流のDab1タンパクのリン酸化、分解を伴ってシグナルが伝達される。Reelin刺激により、Dab1タンパクの発現量が一過性に低下するが、PDDK変異体注入では、Dab1タンパク質の発現量が大幅に低下するため、Reelinシグナルに対しネガティブフィードバック機構が働き、その結果、Reelinの分解を阻害することによって得られると期待していた程の効果が得られず、野生型Reelin注入と同程度の効果になったことが考えられるとしている。

Reelinの認知記憶改善作用にはReelin受容体と結合し、シグナルを伝達することが必要

次に、Reelinの認知記憶障害改善作用のメカニズムを調べるため、c-Fosタンパク質の免疫組織学的解析を行った。統合失調症モデルマウスの前頭前皮質では、コントロールマウスに比較してc-Fos陽性細胞の数が有意に増加したが、その増加はReelinタンパク質の微量注入で有意に抑制され、統合失調症により生じた過剰な神経活動興奮が抑制されていることが示された。

最後に、Reelinの認知記憶障害改善作用がReelin受容体を介したものであるかどうかを調べるため、Reelin受容体への結合能が失われたReelin変異体タンパク質(K2360/2467A変異体)を前頭前皮質内に微量注入し、新奇物体認識試験を行った。その結果、野生型Reelinでは認知記憶障害改善作用が見られたが、K2360/2467A変異体では改善作用は見られなかった。

以上のことから、統合失調症モデルマウスにおけるReelinの認知記憶障害改善作用には、(1)前頭前皮質が重要であること、(2)そのメカニズムとして、ReelinがReelin受容体に結合し、(3)過剰な神経活動興奮を抑制する可能性が明らかにされた。

Reelin分解酵素の阻害剤が新たな統合失調症治療薬となる可能性

Reelinは分子量が非常に大きいタンパク質であるため、Reelinタンパク質そのものを末梢から投与しても、血液脳関門を通過できず、中枢に移行することは難しいと考えられる。しかし、今回の研究でReelinシグナル伝達経路が統合失調症の症状改善に重要であることが改めて示されたことから、内因性のReelin分解酵素を阻害することにより、統合失調症にて減衰すると考えられるReelinシグナル伝達を回復させることを期待して、ADAMTS-3などのReelin分解酵素の阻害剤を開発し、統合失調症の治療につなげたいと考えている、と研究グループは述べている。

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