EP4刺激の難治性心不全における治療的意義・分子機序を検討、自己免疫性心筋炎マウスモデルで
横浜市立大学は10月27日、自己免疫性心筋炎心筋症モデルを用いて、プロスタグランジンE2受容体4(EP4)刺激が心筋炎による心ポンプ失調改善だけでなく、拡張型心筋症の発症を阻止することを世界に先駆けて明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科救急医学の西井基継講師、同学の髙熊朗医学部6年生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
近年、心不全による死亡は増加の一途を辿っており、心不全対策は世界的な課題だ。特に、心筋炎の劇症化(心ポンプ不全)と、その後の特発性拡張型心筋症(IDC)は若年者における重症心不全を来す代表的な心疾患。IDCは、既存の標準的心不全治療薬に対して反応性が悪く、根本治療として心移植しかない。IDCの治療薬開発は喫緊の課題とされている。
心筋炎からIDCへの進展においては、自己免疫応答とそれに伴う心室リモデリング(心室再構築)や心臓線維化が重要であることが示唆されてきました。これまで、EP4は心筋に多く存在し、組織炎症に重要な役割を果たすことが報告されており、虚血性再還流モデルマウスでは心室リモデリングを改善することが示されてきた。しかし、EP4のIDCにおける治療効果とその機序はこれまで不明だった。
そこで、今回の研究では、心筋炎とIDCの解析に有用な自己免疫性心筋炎マウスモデル(EAM)を用いて、EP4刺激の難治性心不全における治療的意義とその分子機序を検討した。
EP4受容体シグナル、心筋炎による心ポンプ失調改善・IDCへの進展予防の新規治療標的として期待
今回の研究では、EAM炎症活動期の心臓において、EP4受容体発現が亢進しており、選択的EP4作動薬投与により、炎症極期での心機能障害と血圧低下が改善し、慢性期で心拡大やコラーゲン沈着が抑制されることを見出した。一方、これらの心保護効果は選択的EP4阻害剤の併用により阻害された。以上より、EP4受容体シグナルが、心筋炎による心ポンプ失調の改善およびIDCへの進展を予防する新たな治療標的として期待されることが示された。
心筋炎後IDC発症を予防する新たな分子機序として、EP4シグナルによるTIMP3発現の増加が、心筋炎後の持続的なマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)2活性を抑制し、その結果過剰な心筋細胞外マトリックス代謝が制御されることで心筋炎に引き続く心室リモデリング、心臓線維化の進行が阻止されることが明らかになった。
心筋細胞外基質の過剰な分解亢進は、特発性拡張型心筋症の主病態である心室再構築と線維化を誘導することが知られており、この病的な基質分解の分子機序において持続的なMMP2活性が重要な役割を果たしていることが示唆された。
一方、EP4作動薬は、TIMP(組織抑制型メタロプロテアーゼ)3の発現を増加し、MMP2の活性を制御することで、過剰な心筋細胞外基質分解を抑制。その結果、特発性拡張型心筋症の発症を抑制する可能性が示された。
EP4選択的作動薬、ヒト心筋炎患者での臨床研究推進へ
今後、ヒト心筋炎患者においてEP4選択的作動薬の臨床研究を推進していくための研究体制を構築し、若年者における重症心不全に対する治療法の確立に貢献していく、と研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース