尿路感染症や腎盂腎炎の診断により入院した15歳以上の患者23万人を対象に
国立国際医療研究センター(NCGM)は10月21日、尿路感染症で入院した23万人の大規模データをもとに、全国規模の実態調査を行い、その結果を発表した。この研究は、同センター、東京大学などと共同で実施されたもの。研究成果は、「BMC Infectious Diseases」に掲載されている。
画像はリリースより
腎盂腎炎のような尿路感染症は、入院を要する感染症としては肺炎についで2番目に多いといわれている。尿路感染症は敗血症やDIC(播種性血管内凝固症候群)といった重篤な状態に至ることもあり、死亡率は1~20%程度と報告されている。高齢、免疫機能の低下、敗血症などが死亡の危険因子とされているが、日本での大規模なデータはなかった。海外の研究でも2000年以降は尿路感染症についての大規模なデータはあまりない。
今回の研究では、日本の急性期病院の約半数をカバーするDPCデータベースを用い、2010年から2015年に退院した約3100万人のうち、尿路感染症や腎盂腎炎の診断により入院した15歳以上の患者23万人のデータを後ろ向きに調べた。なお、膀胱炎は尿路感染症に含まれるが、入院することはほとんどないため、今回の研究対象にはなっていない。日本での年間入院患者数を推定し、患者の特徴や治療内容、死亡率とその危険因子などを調べた。
入院日数の中央値12日、合併症の多さ・重さ、低BMIなどが危険因子
患者の平均年齢は73.5歳、女性が64.9%であった。年代や性別に関わらず、夏に入院患者が多く、冬と春に少ないという季節変動がみられた。尿路感染症による入院の発生率は人口1万人当たりで男性は6.8回、女性は12.4回だった。高齢になるほど入院の発生率が高くなり、70代では1万人当たり約20回、80代では約60回、90歳以上では約100回だった。また、15歳から39歳の女性のうち、11%は妊娠していた。
入院初日に使用した抗生剤は、ペニシリン系21.6%、第1世代セフェム5.1%、第2世代セフェム18.5%、第3世代セフェム37.9%、第4世代セフェム4.4%、カルバペネム10.7%、フルオロキノロン4.5%。集中治療室に入ったのは2%、結石や腫瘍による尿路閉塞に対して尿管ステントを要したのは8%だった。
入院日数の中央値は12日で、医療費の中央値は43万円だった。入院中の死亡率は4.5%で、男性、高齢、小規模病院、市中病院、冬の入院、合併症の多さ・重さ、低BMI、入院時の意識障害、救急搬送、DIC、敗血症、腎不全、心不全、心血管疾患、肺炎、悪性腫瘍、糖尿病薬の使用、ステロイドや免疫抑制薬の使用などが危険因子であることもわかった。
なぜ季節による変化があるのかは今後の他の研究に期待
尿路感染症は女性に多いことが知られており、今回の研究でも確かめられたが、高齢者では人口当たりの男性患者は女性と同程度であることもわかった。年齢とともに人口当たりの入院回数は増えているが、尿路感染症が増えるのか、それとも高齢なので入院を必要とすることが多くなるのかは、入院した患者のみを対象とした今回の研究ではわからなかった。
また、過去の研究でも夏に尿路感染症が多いことがわかっていたが、今回の研究でも夏に多いことが確かめられ、さらに年代や性別によらないこともわかった。冬に死亡率が高いこともわかった一方で、なぜ季節による変化があるのかについてはわからず、今後の他の研究が待たれる。
年間約660億円の入院医療費と推定、医療政策などを検討するうえで有用なデータ
患者一人当たりの平均入院医療費は約62万円で、日本全体で年間約660億円がかかっていると推定された。今回の研究では入院中に発症した尿路感染症は対象とせず、入院以外の医療費や体調不良による欠勤などの経済損失等は考慮していないが、これらを含めると21億ドルもかかっているという米国の研究もあり、医療経済的な観点でも重要な疾患であることが確かめられた。
尿路感染症には軽症なものから重症なものまであり、今までの研究でもいろいろな状況の尿路感染症が対象となっていることもあり、死亡率は1~20%とかなり幅があるが、今回の研究では4.5%であった。死亡の危険因子として、従来わかっている年齢や免疫抑制などのほかにさまざまなものがあることがわかったが、その中でBMIが低いことも危険因子であることがわかった。近年、さまざまな疾患で太り過ぎよりもやせ過ぎていることが体によくないということがわかってきているが、今回の研究でもBMI18.5未満の低体重ではそれ以上と比べて死亡率が高いこともわかった。
ただし、今回の研究は、内容を解釈するうえで注意を要する。1つは、DPCデータには症状や血液検査の結果などは含まれていない点である。登録された病名をもとに尿路感染症の患者を集めているが、病名の妥当性を検証したりすることができていない。また、DPCに参加している病院は比較的規模の大きな病院に偏る傾向があるため、日本全体を反映しているとは言えない部分もある。さらに、入院中のデータのみを調べているため、入院前に使われた抗生剤の情報や退院後の死亡の情報などは不明である。
「これらの限界があったとしても、このような大規模なデータは今までになく、今後適正な診療を行っていくうえで、また医療政策などを検討するうえで、有用なデータが得られたと考えている」と、研究グループは述べている。
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・国立国際医療研究センター プレスリリース