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脳萎縮しても認知機能が保たれることと教育年数が関連している可能性-京大

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2021年10月27日 PM12:30

海馬に限定せず、各部位を総合的に算出する脳の健康指標「BHQ」

京都大学は10月26日、脳MRIドック受診者1,799人を対象に研究を行い、脳の灰白質容積から算出したGM(Gray Matter)-BHQが、海馬の容積計測と比較して、認知機能テストの結果と強く相関することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大オープンイノベーション機構の渡邉啓太特定准教授と山川義德特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cortex」にオンライン掲載されている。


画像はリリースより

脳容積の減少(脳萎縮)は以前には高齢者になってから生じると考えられていたが、脳MRIを用いた脳研究の発展により、実は20歳代が脳容積は最も大きく、その後は30歳代であっても脳容積は年々減少することがわかってきた。この脳容積減少の進行は加齢性変化以外に、肥満や糖尿病などの生活習慣病の有無、疲労状態、食生活などとも関連することから、脳容積を用いて脳の健康を数値化する、または脳年齢を計測するといった研究が世界中で行われている。このうちの一つにITU-T(International Telecommunication Union Telecommunication Standardization Sector:国際通信連合 電気通信標準化事業部門)で標準化されているBHQ(Brain healthcare quotient)という脳の健康指標がある。BHQは脳MRIで計測した灰白質容積や白質の結合性を、脳の領域ごとにデータベースと比較して偏差値を求め平均した値、つまり、脳のさまざまな部位を考慮して算出する値になる。

BHQで、脳萎縮していても認知機能が保たれている理由に迫る

高齢化の進む日本において、認知症は今後より大きな社会的問題になっていく。認知症は臨床所見や認知機能テストを総合して医師が診断するが、一方で診断の客観性を高めるために、MRIやアミロイドPETといった脳画像を用いた診断に期待が寄せられている。しかし、認知症をMRIやアミロイドPETなど脳画像から診断することは容易ではない。例えば、認知症の中で最も多いアルツハイマー病を対象とした死後の脳解剖研究で、病理学的に脳は間違いなくアルツハイマー病の状態にも関わらず、死の直前まで認知機能が正常だった人が一定数いることが報告されている。これと同じように、MRIで脳の容積減少が進行している、またはアミロイドPETでアミロイド沈着がみられても、認知症の兆候がない人がいる。

ここで研究グループは、3つの仮説を立てた。1つ目は、脳のさまざまな部位を考慮したBHQは、海馬など単独の脳部位よりも認知機能を強く反映すると考えた。2つ目は、脳の容積減少が加齢により進行した高齢者ほど、脳容積の減少の程度と認知機能の関係性が乏しくなると考えた。3つ目は、健康的な生活様式を実践している人や脳を活発に使っている人ほど、脳容積の減少が生じても認知機能が保たれると考えた。今回の研究では、これらの仮説の検証が行われた。

脳ドック受診の1,799人対象、GM-BHQは海馬容積計測より認知機能と高く相関

研究対象は、単一施設において2013〜2019年に脳MRIドックを受診した1,799人。認知機能測定にはMMSE(Mini Mental State Examination)を用い、以下の3つの検討を行った。

まず、脳の灰白質容積から算出したGM(Gray Matter)-BHQと認知機能の関係を調査した。比較対象に、海馬容積と傍海馬容積を用いた。海馬は記憶と関与し、認知機能において重要と考えられている脳部位。認知機能とGM-BHQまたは海馬容積、傍海馬容積の相関関係解析したところ、GM-BHQは海馬容積や傍海馬容積よりも、認知機能と高い相関関係を認めた。

脳萎縮進行でも認知機能が保たれている人は教育年数が長かった

次に、年齢を65歳未満と65歳以上の2つのグループに分け、GM-BHQと認知機能との関係を調べた。結果として、65歳以上のグループでは、65歳未満のグループよりも、GM-BHQと認知機能の関係性が乏しくなっていた。

最後に、脳の容積減少が進行している人(平均よりも1標準偏差以上BHQが低い人)を対象に、認知機能が保たれている群と低下している群の2つのグループに分けて、肥満の程度や糖尿病、高血圧の有無、喫煙、飲酒、運動、教育年数などの比較を行った。すると、脳の容積減少が進行しても認知機能が保たれている群は教育年数が長いという結果が得られた。

認知症予防への応用に向けては詳細な解析が必要

近年広まってきている脳MRIドックは日本独自の取り組みになる。健診を受けることで、重篤な疾患が発見され、命が助かった人もいる一方で、脳MRIドックの医学的・科学的な有用性はまだ十分に検証されていない。脳MRIドックを受診した際、より多くの健康情報が得られるように、脳情報を数値化する取り組みが徐々に進んでいる。今回の研究では、記憶を司り、認知機能と強く関連すると考えられている海馬のみの容積を測定するよりも、各脳部位の容積を考慮したGM-BHQのほうが、認知機能と強く相関していることが明らかになった。ただし、脳MRIドックを受診した人を対象とした検討のため、病院で認知症と診断されている患者への有用性については今後の検討が必要となる。

また、大学や大学院まで卒業した教育歴の長い人のほうが、脳の容積減少が進行しても、認知機能が保たれることがわかった。一方で、今回の対象には20歳代~90歳代まで幅広い年齢層の人が含まれており、年代によって大学進学率が異なる点を考慮できていない。また、認知機能が保たれた要因も、若い頃によく勉強していたから、大人になっても勉強する習慣を持っていたから、など複数考えられる。研究グループは、「今回の結果を認知症の予防に応用するにあたっては、認知機能低下を防いだ要因のより詳細な解析が必要になると考えている」と、述べている。

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