臨床研究を過去5年間に実施した1,100人の医師を対象に大規模調査を実施
兵庫医科大学は10月22日、日本全国で臨床研究を実施している1,100人の医師を対象に大規模な横断研究を行い、「多くの医師は受動的に研究公正に関する教育を受けていること」「普段の研究活動において研究公正を意識している医師は半数程度であること」「オーサーシップや研究組織の透明性などへの意識が高くないこと」「研究公正に関する学習が受動的であれば、不適切な研究活動に繋がりやすいこと」などを明らかにしたと発表した。この研究は、同大臨床疫学講座の森本剛教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMJ Open」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
研究者における研究公正への関心や教育機会、研究活動の実態は、これまで曖昧にされてきた部分があり、日本のみならず国際的にも課題とされてきた。昨今では、適切ではない研究活動が世界中で散見され、研究者に対する公正・倫理教育の必要性が認識されつつあり、多くの組織では、研究公正や研究倫理教育が実施されている。臨床研究においては、医療機関に所属する医師などの医療従事者が研究活動を行うことが多く、これまでも公正や倫理に反する発表が繰り返し報告されてきており、多くの研究組織で実施されてきた研究公正や研究倫理教育の有効性には限界があると考えられる。
上記の背景より研究グループは、国内の1,100人の医師を対象とした世界初の大規模な横断研究を行い、研究公正に関する学習や意識、研究活動に関する解析結果を報告した。調査は、臨床研究を過去5年間に実施したことがあり、200床以上の医療機関に勤務する65歳以下の医師を対象に、2020年3月1日~3月31日まで実施した。
研究倫理教育の受講動機が受動的な医師は、不適切な研究活動に関与しやすいと判明
臨床研究を実施している医師の93%は、研究公正(研究倫理教育)を受講しているが、大学病院以外に所属する医師の受講率は89%と有意に低く、受講動機の77%は受動的であり、受講後に研究公正を意識している研究者の割合は54%だった。
研究公正の観点から見て、被験者や参加者の自発性、安全性の確保、データの正確性、ねつ造・改ざん・盗用のチェック、利益相反への意識は50%を超えるが、「適切な画像作成」や「オーサーシップの厳格化」「研究組織の透明性」に対する意識は36%、26%、16%と低く、これらの意識は所属機関や実際の研究活動、研究公正に関する学習活動に関連していた。
研究公正に関する制度や施策に関する認知度は低く、倫理指針でも43%、臨床研究法は37%、省庁の施策は30%の認知度だった。また、不適切な研究活動として調査した論文執筆におけるコピー&ペースト、ギフテッドオーサーは11%と、決してまれではなく「研究倫理教育の受講動機が受動的であった」医師は、不適切な研究活動に関与しやすいことが明らかとなった。
知見を活かし「能動的研究倫理学習プログラム」を医師間で広く展開する予定
今回の研究は、「不適切な研究活動を尋ねる」など、これまでにない内容を、大規模かつ繊細な調査で実施したもの。本来は回答したくない質問である「グレーな研究活動として調査した論文執筆におけるコピー&ペースト、ギフテッドオーサー」の回答(11%)は、過小評価されている可能性が高く、研究公正に抵触する潜在的事案は、もっと多いと推察される。しかし、不適切な研究活動に「研究公正(研究倫理教育)の受動的受講」が関連していることが示唆されており、これは多くの医師が普段の現場で感じていることと合致するという。日本では、所属施設における義務化された講演会やe-learningなどの受動的な研究公正教育が中心だが、今後は研究公正を推進させるための「能動的な教育方法の導入」が求められる。
「今後は、医療分野の研究開発において推進体制の構築を行っている日本医療研究開発機構と森本剛教授らの研究グループとの共同体制により、同研究から得られた知見を元に構築した、研究公正を推進させるエビデンス「研究公正高度化モデル開発支援事業(研究倫理教育に関するモデル教材・プログラムの開発)」を推進し、能動的研究倫理学習プログラムを医師間で広く展開していきたい」と、研究グループは述べている。
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