ストレスホルモン活性化酵素「11β-HSD1」の発現動態を解析
大阪大学は10月19日、授乳時の母親のストレスが仔マウスの脳内でストレスホルモンの活性に影響することをマウス実験で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科の土井美幸大学院生(研究当時)、大阪大学大学院連合小児発達学研究科の岡雄一郎講師、佐藤真教授(両名とも医学系研究科神経機能形態学(兼任))の研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Neurochemistry」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
近年、幼少期におけるストレス負荷が脳の形態や機能にさまざまな影響を及ぼすことが報告されている。しかし、発達段階の脳内における、ストレスホルモンの活性制御に関わる遺伝子に関して、発現動態の詳細は不明だった。ストレス負荷によって血中濃度が上昇することがよく知られているのは、副腎皮質ホルモンのCORT(ヒトではコルチゾール)。CORTの血中濃度は視床下部-脳下垂体-副腎系によって制御されているが、一方で、局所における濃度の制御はストレスホルモン活性化酵素11β-HSDが担っている。
今回の研究では、11β-HSDの中でも、生理活性の弱い不活性型である11-デヒドロコルチコステロンを、生理活性の強い活性型であるCORTに変換する11β-HSD1に着目。ストレス負荷によって血中濃度が上昇したCORTが発達段階の脳にもたらす遺伝子レベルの影響について明らかにするため、11β-HSD1の遺伝子であるHsd11b1の、正常な発達過程およびストレス負荷時の大脳皮質における発現動態について解析した。
母親へのCORT投与で、仔マウス大脳皮質のHsd11b1陽性細胞数が有意に減少
まず、Hsd11b1陽性細胞の大脳皮質おける詳細な分布を、成体マウス(生後56日)を用い、in situ hybridization法によって調べた。その結果、成体マウスの大脳皮質において、Hsd11b1は一次体性感覚野の第5層付近に限局して発現していることがわかった。
この分布様式が、生後間もない頃から維持されているものであるかを調べるため、生後の各発達段階のマウスを用いて上記と同様の観察を実施。その結果、Hsd11b1陽性細胞の分布領域は発達段階において一過性に拡大することが明らかとなった。
そこで、大脳皮質におけるHsd11b1の発現に影響を及ぼす因子について調べるため、Hsd11b1がコードする11β-HSD1によって局所濃度を制御され得る、CORTを投与。その際、CORTは授乳中の母親に与え、母親のストレスが仔マウスの脳にもたらす影響に関しても検討した。その結果、母親へのCORT投与によりその仔マウスの血中CORT濃度が上昇することが確認された。さらに、大脳皮質の3領域(一次運動野、一次体性感覚野、一次視覚野)でHsd11b1陽性細胞の数を計測したところ、それら3領域全てにおいてCORT投与群ではHsd11b1陽性細胞数は有意に減少していることが明らかとなった。
幼少期のストレスがもたらす、発達段階の脳への影響の根本的な理解に期待
今回の研究成果により、授乳中の母親のストレスは仔マウスの血中ストレスホルモンを上昇させ、さらには大脳皮質におけるストレスホルモンの活性化酵素の遺伝子発現に影響を及ぼすことが明らかとなった。これは、幼少期のストレスがもたらす発達段階の脳への影響の根本的な理解につながることが期待される。
また、母親の育児ストレスは社会問題となっており、早急な解決が期待されている。同研究は母親のストレスの改善のため、育児環境の改善・支援について再考するきっかけとなるのではないかと考えられる、と研究グループは述べている。
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・大阪大学 ResOU