腰痛の発生が予測できれば、ストレッチングなどの「回避行動」がとれる可能性
東北大学は10月19日、荷重センサーを装着したオフィスチェア(スマートチェア)を3か月間使用してもらい、座っているときの荷重変化の信号をAI解析することにより、姿勢の固定化を防いでいる可能性がある細かい動きの共通パターンを発見し、そのパターンがみられないと、腰痛悪化が高確率で起こることを見出したと発表した。この研究は、同大大学院医工学研究科 健康維持増進医工学分野の永富良一教授、佐藤啓壮特任講師、医学系研究科障害科学専攻運動学分野 王梓蘅(ワン ツィエン)大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Frontiers in Physiology」(電子版)に掲載されている。
画像はリリースより
日本人の10人に1人が腰痛に悩まされている。例え正しい姿勢を保っていても、長時間座っていると腰痛が悪化することがある。もし、腰痛の発生が予測できれば、回避するためのストレッチングやエクササイズなどの行動をとれる可能性がある。
研究グループは今回、科学技術振興機構(JST)のCOI-STREAM事業COI東北拠点「さりげないセンシングと日常人間ドックで実現する自助と共助の社会創生拠点」の研究成果の一環として、同研究グループが開発した荷重センサーを装着したスマートチェアを利用し、実際にオフィスで働いている人の腰痛悪化予報が可能であることを、世界で初めて報告した。
AIで座っているときの体の動きの共通パターンを発見、実現可能レベルの予測精度を実現
研究では、実際にオフィスで勤務している計22人の研究に同意したオフィスワーカーから3か月にわたりデータを収集し、腰痛についてタブレット端末で1日3回、主観的な腰痛の程度を記録してもらった。座っているときの荷重の変動データから、深層学習を利用して22人に共通な類似の信号変化を同定。さらに、それらが連結して出現する腰痛悪化と関連が強い組み合わせパターンを検出した。感度・特異度は、いずれもほぼ70%と高い予測精度を実現し、実用化可能なレベルの成果を得ることができたという。
同研究は、座位労働者であるオフィスワーカーの主観的な腰痛の悪化が起こるか否かの予測を、オフィスチェアの座面直下に設置した4個の荷重センサーから得られる圧中心の変動に対応する時系列信号から、深層学習を含む人工知能解析技術(AI)を利用して可能にしたもの。
個々人の時系列信号のパターンの検出により、個別化した「悪化予報」が可能
これまで、センサーを搭載した椅子を利用して慢性腰痛の危険性が高くなる姿勢や座位時間の判定は行われてきたが、数分~数十分の座位に伴う圧中心の変動から主観的腰痛を予測する技術はなかった。これは、実生活におけるさまざまな規則性に乏しい時系列信号の数理モデル化するのが困難であることに起因していた。
しかし、最新の時系列信号処理やAI技術を適用することにより、生体由来の確率論的な信号体系から課題となる腰痛などの事象の予測が可能になった。このことは、同研究が痛みや不快感などさまざまな心因・知覚に基づく課題事象予測への拡張可能性を示すもの。また、これまでの範囲や程度を固定化して定義した指標による危険因子とは異なり、個々人の時系列信号のパターンの検出により、個別化した予報が可能であることを示した点に高い価値があるとしている。
姿勢の固定化を防ぐ細かい動きの発見が、不定愁訴の対処法開発につながることに期待
今回の研究成果により、日常生活における連続的な生体由来信号からAI技術で腰痛などの予報が可能であることが示されたことから、ウェラブルや生活の中でのセンサーの利用価値が大きく広がる可能性が期待される。
「また、姿勢の固定化を防いでいる細かい動きの発見は、今後、肩こり、頭痛、関節痛など、不定愁訴と言われる症状の要因の解明と対処法の開発がさらに進むことが期待される」と、研究グループは述べている。
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