RSウイルス感染に伴う呼吸器基礎疾患の増悪機構は未解明だった
東京医科大学は10月18日、喘息マウスにrespiratory syncytial virus(RSウイルス)を感染させると、matrix metalloproteinase-12(MMP-12)を多量に産生するM2様マクロファージが現れ、好中球浸潤の促進を介して喘息が増悪することを発見したと発表した。この研究は、同大微生物学分野の柴田岳彦准教授(研究開始当初:国立感染症研究所免疫部)と東邦大学大学院理学研究科の牧野愛璃大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
呼吸器感染症をひき起こすRSウイルスは、ほぼ100%の乳幼児が2歳までに感染する。特に、初めての感染時に細気管支炎や肺炎など重症化することがあるが、健康な成人であれば鼻かぜ程度で済むことがほとんどだ。これに対して、乳児や高齢者がRSウイルスに感染すると、二次性細菌性肺炎が誘発されたり、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)などの呼吸器基礎疾患が増悪したりする。
研究グループは先行研究により、RSウイルス感染に伴う二次性細菌性肺炎の発症機構の1つを解明した。一方、RSウイルス感染に伴う呼吸器基礎疾患の増悪機構は解明されていなかった。そこで今回の研究では、RSウイルス感染に伴う喘息の増悪の免疫学的メカニズムを解明することを目的とした。
RSウイルス感染による喘息増悪モデルマウスで、MMP-12による好中球浸潤が重要と判明
同研究ではまず、イエダニ抗原(HDM)誘導喘息モデルにRSウイルスを感染させることにより、マウス喘息(アレルギー性気道炎症)増悪モデルを作製。このモデルを用いて解析したところ、RSウイルス感染や喘息グループと比較して喘息増悪グループでは病態の指標となる気道抵抗(AHR)の値、MMP-12レベル、好中球数の顕著な上昇が見られた。
そこで、MMP-12の増悪への関与を調べるために、野生型(WT)とMMP-12ノックアウト(KO)マウスを用いて喘息増悪モデルを作製したところ、MMP-12 KOマウスではAHRと気道への好中球浸潤が抑制された。つまり、MMP-12は好中球浸潤と喘息の増悪を誘導することが判明。さらに、増悪グループで増加する好中球を枯渇したところ、AHRの上昇が抑制されたことから、好中球数の増加が喘息の増悪に関与していることがわかった。
RSウイルス感染<IFN-β<M2様マクロファージのIL-4Rα発現上昇<MMP-12産生
次に、喘息を増悪させるMMP-12の産生細胞の同定を試みた。その結果、喘息グループに多く存在するM2様マクロファージがMMP-12を産生し、さらに喘息増悪グループに存在するM2様マクロファージは、より多量のMMP-12を産生することを見出した。
そこで、増悪グループのM2様マクロファージが多量にMMP-12を産生するメカニズムの解明を試みた。インターロイキン(IL)-4やIL-13のようなTh2サイトカインは、M2様マクロファージとそのMMP-12産生を誘導する。in vitroの実験で、これらTh2サイトカインは濃度依存的にマクロファージのMMP-12発現を上昇させたが、ある濃度で頭打ちとなった。
これに加えて、喘息と喘息増悪グループのTh2サイトカインレベルを比較すると両者に差がなかったことから、MMP-12レベルが増悪グループで上昇する原因は、Th2サイトカインそのもののレベルの上昇ではないことが予想された。その他グループと比較して喘息増悪グループのマクロファージはIL-4受容体(IL-4Rα)を高発現。in vitroの実験で、マクロファージにIFN-βを加えるとIL-4Rαが高発現し、これまでと同じ濃度のTh2サイトカインを加えると、限界をむかえていたMMP-12レベルがさらに促進されることがわかった。
以上の結果より、RSウイルス感染によって誘導されるIFN-βがM2様マクロファージのIL-4Rαの発現を上昇させ、Th2サイトカインに敏感に反応し、MMP-12を高発現することが示唆された。
喘息増悪モデルにMMP-12阻害剤投与で好中球浸潤を抑制、喘息増悪を改善
さらに、MMP-12による好中球浸潤促進メカニズムを検討。MMP-12は好中球走化性因子であるCXCL1やTh17細胞からのIL-17A産生を促進することがわかった。上皮細胞にMMP-12が作用するとCXCL1が誘導され、また、MMP-12はIFN-β産生を阻害するため、喘息増悪グループではウイルス量が増加し、結果としてIL-17A産生が誘導されることが明らかになった。
吸入ステロイドは、喘息治療に使用される。喘息増悪モデルにステロイドの一種であるデキサメタゾンを投与しても増悪の改善は見られなかった。一方、MMP-12阻害剤(MMP408)を投与すると好中球浸潤が抑制され、喘息の増悪が改善された。
ウイルス感染に伴う喘息増悪などの新規予防・治療法開発に期待
同研究成果は、ウイルス感染に伴う喘息の増悪や好中球性喘息に対する新しい予防・治療法の開発につながることが期待される。これを実現するためには、少なくとも今回の実験動物レベルでの発見がヒトにも適用するか、例えば喘息患者の増悪の前後でのMMP-12レベルについて検討することが必要だ。
また、MMP-12はCOPD患者においてレベルが上昇することが知られているが、その産生機構はほとんど解明されていない。「現在、本研究にて見出されたメカニズムがCOPDにおけるMMP-12産生にも関連するか検討中」と、研究グループは述べている。
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