男性更年期障害に対するホルモン補充療法に課題
神戸大学は10月19日、ヒトiPS細胞から男性ホルモン(テストステロン)を産生するライディッヒ細胞を作製することに成功したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科iPS細胞医学応用分野の青井貴之教授、石田貴樹研究員、同大大学院医学研究科腎泌尿器科学分野の藤澤正人学長らの研究グループによるもの。研究成果は、「Endocrinology」に掲載されている。
画像はリリースより
中高年の女性では閉経する時期を挟んだ約10年間で女性ホルモン(エストロゲン)の低下により更年期障害が起きることはよく知られている。一方、男性も加齢により男性ホルモン(テストステロン)が低下し、抑うつ症状や、性機能(性欲や勃起能など)、筋肉量、骨密度などの低下が認められることがあり、日常生活に大きな支障をきたしてしまう男性更年期障害がある。男性更年期障害の状態にある人は日本で数十万~200万人以上いるといわれているが、認知度が低いのが現状だ。男性更年期障害の患者には定期的な男性ホルモンの補充療法が行われているが、頻回の通院治療が必要であることや、分泌によらないホルモンの補充による血中ホルモン濃度の動態がこの治療の問題点となっている。
ヒトiPS細胞由来のライディッヒ細胞が産生する男性ホルモン、機能的であることを確認
研究グループは、あらゆる細胞に分化する能力を持つヒトiPS細胞から男性ホルモンを産生するライディッヒ細胞を作製し、男性更年期障害の患者に移植することができれば根本的な治療になると考え、研究を行った。
男性の精巣(睾丸)の中にあるライディッヒ細胞は、男性ホルモンを産生することが主な役割で、血液中の男性ホルモンのうち90%以上はライディッヒ細胞から作られている。そこで研究グループは、性腺や副腎の発生に重要な役割をしているNR5A1を男性由来のiPS細胞に発現させることで、ライディッヒ細胞を作製。作製した細胞はライディッヒ細胞に特徴的な遺伝子を発現していたという。
また、iPS細胞から作製したライディッヒ細胞は男性ホルモンを産生していることを確認。さらに、この産生された男性ホルモンは、LNCaP細胞という男性ホルモンによって増殖する細胞を用いた細胞増殖実験において増殖を促進する働きを示したことから、機能的なものであることもわかった。
男性更年期障害患者に対する再生医療の実現につながる成果
今回、ヒトiPS細胞から作製したライディッヒ細胞を作製することに成功した。将来的には、ヒトiPS細胞から作製したライディッヒ細胞を、男性更年期障害患者へ移植する再生医療の実現につながる成果と考えられる。「ライディッヒ細胞はほとんど増殖しない細胞であり、培養が難しいことも知られている。ヒトiPS細胞から作製したライディッヒ細胞を用いることで、再生医療に限らずさまざまなライディッヒ細胞の研究に役立つ可能性がある」と、研究グループは述べている。
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