何らかの感染症の罹患を契機に発症すると推定される川崎病
山梨大学は10月7日、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が国内で流行し始めた2020年3月~11月までの9か月間に、例年と比較して山梨県内における川崎病の発症数が有意に減少していたことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大医学部小児科学講座の勝又庸行医師(山梨県立中央病院新生児科)、原間大輔医師(山梨県立中央病院小児科)、同大小児科学講座の戸田孝子学部内講師らと、山梨県内の全ての小児入院施設で構成される山梨川崎病研究グループとの共同研究によるもの。研究成果は、「Journal of Epidemiology」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
川崎病は、主に乳幼児期に発症する原因不明の全身性の炎症性疾患である。一部の症例で合併症として心臓の冠動脈に瘤ができることがあり、冠動脈瘤は長期的に心筋梗塞の原因となりうることが知られている。川崎病は、ヨーロッパやアメリカと比較して、アジア圏、特に日本での患者数が際立って多いことが特徴とされている。川崎病の直接的な原因は不明だが、幼少期に発症頻度が高いこと、地域や季節によって発症頻度が変動することなどの特徴から、何らかの感染症への罹患が川崎病の発症を誘発する背景になっていると推定されている。
山梨県の川崎病全発症データを用いて、COVID-19流行前後での川崎病発症数を比較
2020年春から、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が日本国内でも流行をきたしている。この間に、学校の臨時休校や時差登校をはじめとする三密を避ける生活様式に加えて、マスクの装着や手洗い・手指消毒があらゆる場所で徹底されるなど、子どもたちの生活環境は大きく変容した。これら各種の感染予防対策の徹底は、COVID-19のみならず、飛沫、接触感染をするさまざまな感染症に対しても有効である。
実際に、国立感染症研究所のデータをみると、2020年春以降は、インフルエンザやRSウイルス感染症、手足口病などの小児の代表的な感染症の流行はほとんどみられなかった。その一方、COVID19を発症した小児の中で、感染が判明した数日後に川崎病とよく似た症状が出現することが、欧州や米国を中心として多数報告されている。しかし、COVID-19の蔓延が欧米よりも低く抑えられている日本国内では、COVID-19罹患に伴った川崎病もしくは川崎病に類似する炎症性疾患の発症の確認は極めて限られている。
そこで今回研究グループは、COVID-19パンデミックに対するさまざまな感染予防策の徹底によって、日本国内では種々の小児の感染症の流行が抑制され、それによって川崎病の発症が例年よりも減少しているのではないかと仮説を立て、山梨県内で疫学的な調査を実施した。
研究を実施した山梨川崎病研究グループは、山梨県内にある小児に対する入院機能を有する全ての病院で構成されており、山梨県内で診断を受けた全ての川崎病症例の病状を把握し、その情報を蓄積してきた。このような都道府県全体での発症状況が全数把握されているのは、全国で山梨県だけ。そのデータベースを用いて、2015年1月~2020年2月(COVID-19流行前)と、2020年3月~11月(COVID-19流行期)で、3月~11月までの月別および季節(3か月毎)別における川崎病の発症率と、患者の臨床的な特徴を検討した。COVID-19の流行状況は、厚生労働省や山梨県が公表するオープンデータを、一般の感染症の流行状況は国立感染症研究所が公表している全国に約5,000箇所ある定点からの週報を利用した。
2020年3月~11月、例年同時期と比較して川崎病の患者数が半減
解析対象期間とした3月~11月に、例年流行が見られる代表的な感染症として、手足口病とRSウイルス感染症がある。国立感染症研究所の感染症週報を基にして、これらの感染症における定点当たりの罹患者数を解析した。その結果、全国集計において、手足口病とRSウイルス感染症の2020年の罹患者数は、2015年~2019年の同時期に比較して、それぞれ93%と84%も減少しており、流行は認められなかった。山梨県内での集計でも、全く同様な結果であった。その他、インフルエンザ、急性胃腸炎、マイコプラズマ感染症、溶連菌感染症、ヘルパンギーナなど、小児で見られる代表的な感染症に関しても、同様に罹患者数の減少が認められた。
山梨県内では、COVID-19パンデミックの2020年3月~11月までの9か月間に38人が川崎病と診断された。これは2015年から2019年までの5年間における同じ9か月間での平均の川崎病患者数82人と比較して、半減したことになる。また、3月~11月までの期間の毎月の患者数は、2015年から2019年までの延べ45か月間の中央値が9人であったのに対し、2020年の9か月間の中央値は4人であり、統計学的にも有意に減少していた。
また、COVID-19パンデミックの2020年3月~11月までの9か月間に診断された38人の川崎病患者のなかに、COVID-19を発症していた症例はなく、川崎病の重症度も、それ以前の症例と比較して変化はみられなかったという。
「第5波」以降は新型コロナ感染者が低年齢化の傾向、川崎病の発症状況に注意
今回の研究結果は、川崎病が何らかの感染症の罹患を契機に発症するという仮説を裏付けるものと考えられるという。欧米では、COVID-19パンデミックに伴って、小児において川崎病もしくは川崎病に類似する炎症性疾患の増加が報告されている。今回の研究対象となった2020年11月までの時点で、山梨県内ではCOVID-19感染に関連すると考えられる川崎病の症例はなかった。しかし、COVID-19の国内での感染流行は、特に第5波以降は低年齢化する傾向が認められている。「川崎病の発症状況について今後は注意深く見守る必要がある」と、研究グループは述べている。
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・山梨大学 プレスリリース