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新型コロナ緊急事態宣言で低学年児童の「転倒」と「肥満」のリスクが増加-名大ほか

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2021年10月13日 AM11:30

緊急事態宣言による行動制限は、子どもの身体機能にどんな影響を与えたのか

名古屋大学は10月11日、新型コロナウイルス流行に伴う緊急事態宣言で、低学年児童の「」と「」のリスクが増加したと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科総合保健学専攻の杉浦英志教授と同専攻の伊藤忠客員研究者(愛知県三河青い鳥医療療育センター三次元動作解析室:動作解析専任研究員兼務)、愛知県三河青い鳥医療療育センター小児科の越知信彦センター長補佐および伊藤祐史医長、整形外科の則竹耕治センター長の研究グループによるもの。研究成果は、「International Journal of Environmental Research and Public Health」に掲載されている。


画像はリリースより

2020年3月、世界保健機関は新型コロナウイルス()のパンデミックを宣言した。政府は同年4月から5月にかけて非常事態宣言を出し、社会的な距離を保つことを求めた。また、多くの都道府県では、緊急事態宣言が発令される前の同年3月2日~5月25日まで小学校を休校とした。これらの緊急対応は感染拡大を防ぐためには必要だったが、結果的に児童の身体活動の機会を減少させた。学校への通学や体育の授業を制限された児童は、健康問題だけでなく身体機能が低下する可能性が高くなることが予想される。したがって、緊急事態宣言に伴う行動制限の結果、子どもたちに身体機能低下の兆候が見られるか否かを評価することは重要だ。

しかし、COVID-19による緊急事態宣言以降の児童の身体機能の変化について、直接測定して調査した研究は世界的にも数が少なく、国内では見当たらなかった。そこで研究グループは、COVID-19に伴う緊急事態宣言による児童の身体機能の影響を調査することを目的として研究を行った。

6~7歳の体脂肪率、片脚立位時間、握力、歩容、1か月間の転倒回数を調査

研究では、2018年12月~2020年12月にかけて、運動器健診に参加した6~7歳の児童110人(男児53人、女児57人)を対象とした。評価項目は、体脂肪率、片脚立位時間、握力、歩容、1か月間の転倒回数とした。緊急事態宣言前に健診に参加した児童(宣言前群56人)と、宣言後に参加した児童(宣言後群54人)に分類した結果を分析した。

この2群間の身体機能を比較するために、「体脂肪率、片脚立位時間、握力、歩容」を実際に測定し、結果を比較。次に、複数の質問紙に回答してもらった。質問紙では、過去1か月間の歩行中の「転倒回数」、健康と生活の質に関するアンケート、子どもの強さと困難さのアンケート、身体活動時間、1週間の食事の回数、スポーツ経費、1日の睡眠時間を評価した。

緊急事態宣言による活動制限はバランス機能低下と体脂肪率の増加につながるリスク「高」

その結果、緊急事態宣言後に運動器健診に参加した児童は、「片脚立位時間」「体脂肪率」「転倒回数」「身体活動時間」において、両群の間に統計学的有意差があり、片脚立位は低い値、体脂肪率、転倒回数、身体活動においては高い値を認めたという。次に、緊急事態宣言との関連を調査するために、二項ロジスティック回帰分析を行った。その結果、緊急事態宣言後に運動器健診に参加した児童は、「片脚立位時間」「体脂肪率」「転倒回数」が関連していることが認められ、特に「転倒回数」との関連が高い(オッズ比:1.899倍)ことが明らかになった。

これらの結果から、緊急事態宣言による活動制限は、バランス機能低下と体脂肪率の増加につながるリスクが高く、「バランストレーニング」と「適切な食習慣」の実行が重要であることが示された。

良好な食習慣の促進と、質の高い運動プログラムを積極的に取り入れていくことが必要

今回の研究では、緊急事態宣言後の児童の身体活動時間が、宣言前の児童よりも長く、これはベルギー、チェコ、ドイツ、スペインの研究結果と一致しているという。このことから、政策上の制限や児童におけるCOVID-19の感染者数の違いなどの要因により、国によって児童の行動が異なることが考えられる。また、国外の研究では身体活動の場所も大きく変化し、自宅やガレージ、歩道や道路で身体活動を行う子どもが増えたことが報告されている。そのため、身体活動を行うための場所の制限により、身体機能の維持・向上に必要な運動プログラムが十分に行えなかった可能性が高く、このような状況がバランス機能に悪影響を及ぼした可能性が示唆された。

また、食事の回数、スポーツ経費、睡眠時間については、緊急事態宣言前に参加した児童と、宣言後に参加した児童で有意差は認められなかった。これは、今回の調査期間において、緊急事態宣言の期間が短かったため、これらの要因は影響を受けず、食事回数やスポーツ経費、睡眠時間の変化が大きくないことが示された。

「COVID-19のパンデミックに伴う活動制限による、児童の身体機能低下を防ぐためには、内容を充実させた身体活動と良好な食習慣を促進することが望ましいと思われる。緊急事態宣言に伴う活動制限による身体機能低下を予防・維持・向上させるためには、学校の放課、授業後、休日などを利用して、質の高い運動プログラムを積極的に取り入れる等の対策が必要だ」と、研究グループは述べている。

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