遷延症状の記述疫学と、初の遷延リスク因子に関する報告
国立国際医療研究センター(NCGM)は10月8日、新型コロナウイルス感染症罹患後の遷延症状の記述疫学とその出現・遷延リスク因子に関する報告を行ったことを発表した。この研究は、NGGM国際感染症センター国際感染症対策室の森岡慎一郎医長らの研究グループによるもの。研究成果は、preprintとして「medRxiv」に掲載されている。
画像はリリースより
これまで、国内外の報告からCOVID-19に遷延症状があることが確認されてきた。国内の複数の調査では、中等症以上の患者512人において、退院後3か月の時点で肺機能低下(特に肺拡散能)が遷延していた。また、軽症者を含む525人において、診断後6か月の時点で約80%は罹患前の健康状態に戻ったと自覚していたが、一部の症状が遷延すると生活の質の低下、不安や抑うつ、睡眠障害の傾向が強まることがわかった。嗅覚・味覚障害を認めた119人において、退院後1か月までの改善率は嗅覚障害60%、味覚障害84%だった。罹患後半年以上追跡した疫学調査報告や遷延症状が出現するリスクの調査は少なく、また、遷延のリスク因子に関する報告はこれまでになかった。
アンケートに回答の457人対象、84.4%が軽症者
今回、研究グループは、2020年2月~2021年3月までにNGGM病院のCOVID-19回復者血漿事業スクリーニングに参加した患者を対象として、アンケート調査を実施。調査項目は、患者背景、COVID-19急性期の重症度や治療内容、遷延症状の各症状の有無とその遷延期間だった。症状の出現頻度や遷延期間から、各症状を(1)急性期症状、(2)急性期から遷延する症状、(3)回復後に出現する症状の3つに分類した。また、遷延症状である(2)と(3)に関して、症状の出現リスク、症状が出現した患者における遷延リスクを探索的に調査した。
結果、526人の対象者のうち、457人から回答を得た(回収率86.9%)。回答者の年齢の中央値は47歳、231人(50.5%)が女性、何らかの基礎疾患を有したのは212人(46.4%)、欠損値9人を除いた448人のうち、重症度は軽症(酸素投与を必要としない患者)が378人(84.4%)、中等症が57人(12.7%)、重症が13人(2.9%)だった。また、発症日からアンケート調査日までの期間の中央値は248.5日だった。
COVID-19の各症状は、(1)急性期症状:発熱、頭痛、食欲低下、関節痛、咽頭痛、筋肉痛、下痢、喀痰、(2)急性期から遷延する症状:倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、咳嗽、呼吸困難、(3)回復後に出現する症状:脱毛、集中力低下、記銘力障害、うつに分類された。
軽症者でも遷延症状が長引く人がいると判明
発症時もしくは診断時から6か月経過時点で337人(73.7%)が無症状であり、120人(26.3%)に何らかの症状を認めた。つまり、約4人に1人が半年間経っても何らかの遷延症状を呈しており、軽症者であっても遷延症状が長引く人がいることが明らかになった。また、発症時もしくは診断時から12か月経過時点で417人(91.2%)が無症状であり、40人(8.8%)に何らかの症状を認めた。これらの結果から、最も重要な遷延症状の予防はCOVID-19に罹患しないことであり、基本的な感染対策が重要と考えられた。
女性・若年者・やせ型が出現リスク高、女性は味覚障害の遷延リスクも高
倦怠感、味覚障害、嗅覚障害、脱毛に関して、その出現リスクと遷延リスクを解析したところ、男性と比較して女性ほど倦怠感、味覚・嗅覚障害、脱毛が出現しやすく、味覚障害が遷延しやすいことがわかった。また、若年者、やせ型であるほど味覚・嗅覚障害が出現しやすく、活の質を著しく低下させる可能性があることがわかった。抗ウイルス薬やステロイドなどの急性期治療の有無と遷延症状の出現に関して、明確な相関はなかった。
ワクチン2回接種は遷延症状の予防にも有用な可能性
今回の研究では調査されていないが、コロナワクチンを2回接種していた人は、COVID-19罹患後に症状が28日間以上遷延しにくく、このことから、コロナワクチンは、発症予防や重症化予防だけではなく、遷延症状の出現予防にも寄与する可能性があると報告されており、研究グループはこの件について、今後の重要な研究課題と考えられるとしている。
なお、今回の研究の限界として、想起バイアス、アンケート調査であること主観的側面があること、対象者に偏りが生じうること、サンプル数に限界があること、アンケート調査時に症状を有している患者は症状の持続時間を過小評価している可能性があることなどが挙げられる。
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