家庭内での電力使用データと年齢・教育歴などの基本情報から、認知機能低下を予測するモデル
国立循環器病研究センターは10月8日、居宅内の電力使用データを用いて、各家電の使用状況から認知機能低下を予測するモデル作成に世界で初めて成功したと発表した。この研究は、同研究センター予防医学・疫学情報部の中奥由里子リサーチフェロー、尾形宗士郎上級研究員、西村邦宏部長らと、東京電力パワーグリッド株式会社(以下、東電PG)の研究グループによるもの。研究成果は、「Sensors」に掲載されている。
画像はリリースより
超高齢社会に突入している日本では、認知症の患者数が増加している。認知症に至ると根治治療薬がなく、その前段階である軽度認知障害(MCI)は可逆的であるため、早期発見・介入につなげることで、認知症の発症を抑制することに注目が集まっている。
しかし、現状では、煩雑な認知機能検査や患者の受診への抵抗などにより、認知症の発見が遅れがちとなっている。そこで今回の研究では、家庭内での電力使用データと年齢・教育歴などの基本情報を用い、認知機能低下を予測するモデル作成を行った。
2019年4月~2020年7月、宮崎県延岡市65歳以上の高齢者78人を対象に解析
2019年4月~2020年7月の間、宮崎県延岡市の65歳以上の高齢者を対象として、同研究に参加し、電力使用データを取得できた78人を対象に解析を実施した。認知症スクリーニング検査であるMini-mental State Examination(MMSE)27点以下を認知機能低下、28点以上を認知機能正常と定義。また、電力使用データについては、東電PGの子会社の株式会社エナジーゲートウェイが提供する高精度電力センサーにて収集・分析し得られた、主な家電ごと(IH(電磁誘導調理器)、電子レンジ、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、掃除機など)の使用状況を含むデータを使用している。なお、電力使用データの分析には、東電PGが協業するインフォメティス社の機器分離推定技術(Non-Intrusive Load Monitoring)を含む電力分析技術を使用した。
家電ごとの使用時間について、被験者ごとにランダム切片とした一般化線形混合モデルを用いて、認知機能低下のありなしの2群を比較。加えて、一般化線形モデルを用いて、年齢、教育歴などの基本情報と、電力使用時間の季節ごとの平均値の変数を加えた予測モデルを作成し、予測性能を評価した。
認知機能低下群は、IH使用時間、電子レンジの春と冬の使用時間、エアコンの冬の使用時間「短」傾向
その結果、認知機能低下群は、認知機能正常群と比較してIHの使用時間が短く、電子レンジの春と冬の使用時間が短く、エアコンの冬の使用時間が短い傾向が見られた。また、電力使用時間の季節ごとの平均値の変数と年齢、教育歴などの基本情報を加えた予測モデルの予測性能は、精度82%だった。
宮崎県延岡市で認知機能低下予測モデルを活用した研究・サービスの検討を進める予定
今回の研究において、基本情報と電力使用データを用いた予測モデルにより、認知機能低下を高精度に予測することに成功した。高齢者が自宅で生活できるように、家電毎の使用状況や被験者の生活行動をモニタリングする技術や基盤については、すでに多くの論文で報告されているが、同研究のように機器分離技術を実際に用いて認知機能低下を予測した報告は、世界初の研究結果となるという。
同予測モデルにより、家庭にある分電盤に高精度電力センサーを設置するだけで、AIを活用した機器分離技術による各家電の使用状況から、認知機能低下を予測することができる。自宅での家電の使用をモニタリングすることは、対象者の身体または精神への侵襲性が低く、簡易な方法であるため、認知機能低下を早期発見するためのスクリーニング法として基盤整備され、認知機能低下疑いの方の病院受診につながることが期待される。
今後、宮崎県延岡市で認知機能低下の予測モデルを活用した研究・サービスの検討を進める予定。持続可能な社会基盤の構築を目指すとともに、高齢者の便利で安心な暮らしの実現に貢献していく、と研究グループは述べている。
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・国立循環器病研究センター プレスリリース