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コロナ治療でレムデシビルが果たす役割は? ギリアド社ルーク・ハーマンス氏、表雅之氏、順天堂大浦安病院の石原唯史氏に聞く

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2021年10月11日 PM01:00

新型コロナウイルス感染症()に対して、唯一承認されている抗ウイルス薬がレムデシビル(商品名:)だ。同薬について2021年6月、世界微生物フォーラム(WMF)で米国のリアルワールドデータを分析した結果が報告された(詳細はこちら)。

リアルワールドデータの意味するところは何なのか、COVID-19治療におけるレムデシビルの立場とは。また新たなCOVID-19治療薬開発では何が求められているのか――。ギリアド社社長のルーク・ハーマンス氏と開発本部長の表雅之氏、順天堂大学医学部附属浦安病院の石原唯史氏(救急診療科/こども救急センター准教授)に話を聞いた(石原氏には8月12日オンラインインタビュー、ハーマンス氏と表氏には8月27日オンラインインタビュー)。

表氏「すべての重症度の患者でレムデシビルの効果を確認」

厚生労働省がCOVID-19に対する治療薬としてレムデシビルを承認した根拠の1つとなったのは、米国国立衛生研究所(NIH)内の米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)が行った国際共同第3相試験Adaptive Covid-19 Treatment Trial(ACTT-1試験)だ。18歳以上のCOVID-19陽性入院患者1062例を対象に無作為化、二重盲検、プラセボ対照で実施。レムデシビル群に541例、プラセボ群に521例を割り付けた。

同試験の結果、回復までの期間がプラセボ群では15日だったのに対し、レムデシビル群で10日と5日間の短縮がみられた。またレムデシビルは、治療開始時に低流量の酸素投与を受けている患者の死亡率を70%減少させた。一方、それ以外の患者では統計的に有意な死亡率の減少はみられなかった。

6月に発表されたリアルワールドデータは、HealthVerity社がAetion社と共同で実施した多施設レトロスペクティブ解析、Premier Healthcare社のデータベースを用いたレトロスペクティブ比較分析、ギリアド社が重症患者を対象に実施したSIMPLE試験の拡大フェーズのデータとリアルワールドデータを比較した解析の3つ。これらの試験では、治療開始時の酸素必要量にかかわらず死亡率の減少がみられた。

表氏はリアルワールドデータで示された結果について、「ACTT-1試験では、治療開始時に低流量の酸素補給を受けている重症化前の患者で死亡率の減少が見られたが、患者全体では有意差はつかなかった。今回の大規模なリアルワールドデータでは、全体集団を含む軽症患者から重症の入院患者で死亡率の有意な減少が認められた。この結果は、ACTT-1試験結果を補完するもので、すべての重症度でレムデシビルが有効だと示された」との受け止めを表明。「重要なのはどの段階でもレムデシビルが必要だということだ。感染初期のウイルス反応期では単剤で使用し、疾患が進行した宿主炎症反応期ではレムデシビルと抗炎症作用のある薬剤を併用するという使い方がクリアになってきたのではないか」と指摘した。

ハーマンス氏は、「早期に投与を開始した方が良いことや、安全性についても改めて確認することができた」とした。レムデシビルを巡って発表されているリアルワールドデータを解析した論文などの評価については、「正しいやり方でマッチングした対照群と比較されていることが重要」と強調した。

デルタ株による感染が勢いを増す第5波でも「薬の効果は感じている」

変異を繰り返し、感染力を増している新型コロナウイルス。レムデシビルは変異株に対しても有効なのか。

新型コロナウイルスの変異は、ウイルス表面の突起部分であるスパイクタンパクに起こる。レムデシビルはウイルスのRNAの複製を抑えるRNAポリメラーゼ阻害薬のため、「作用機序を考えると変異の影響を受ける可能性は非常に低いと考えている。実際、2021年4月からの第4波で猛威を振るったイギリス由来のアルファ株について臨床分離株を調べた研究では、レムデシビルの効果が変わっていないことを確認している」。(表氏)

現在ギリアド社では、2021年7月からの第5波で感染が急拡大した要因とされるデルタ株の臨床分離株を用いてレムデシビルの効果を調べる研究を行っているという。第5波の最中、COVID-19治療に携わってきた医師の石原氏に治療薬を使用した感想を問うと「レムデシビルだけではないと思うが、薬の効果は感じている」と手ごたえを語った。

レムデシビルの供給に関しては供給量や供給スピードの懸念から、2020年5月の特別承認以降、ギリアド社と厚生労働省との合意のもと同省より医療機関に供給してきた。ハーマンス氏は、「需要の高まりとともに本剤の生産能力が大幅に向上し、需要を満たす供給の見通しが立った」とし、レムデシビルは8月12日に薬価収載となった。2021年10月をメドに一般流通を開始する予定だという。供給の問題についてハーマンス氏は、「需要には十分対応できる」との考えを示し、「通常の薬剤流通ルートとなってからも、トラッキングを続け、需要の把握に努めたい」と話した。

軽症患者を対象とした経口薬の開発を急ぐ

依然課題となっているのは、軽症で自宅療養をしている患者に対する治療薬がないことだ。救急医の石原氏は、「インフルエンザ治療薬のように、外来で治療可能な吸入薬や内服薬が必要だ」と強調。2009年に新型インフルエンザのパンデミックが発生した際には、「患者数が多くても社会の経済を止めるまでにはいかなかった」と指摘し、その理由の1つとして、「決定的な治療薬があったことが挙げられるのではないか」との考えを示した。「抗ウイルス薬で唯一承認されているレムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療用に開発されたものだ。COVID-19に限定した薬があれば、より治療効果に期待ができるだろう。現在、さまざまな経口薬の開発や試験が進んでおり、COVID-19の治療に期待したい」(石原氏)

ギリアド社での治療薬開発状況について表氏は、「現在2種類の経口薬(直接作用型の抗ウイルス薬)の開発を進めている」と明らかにした。その上で、「ギリアド社はレムデシビルを開発しただけでなく、抗HIV治療薬やC型肝炎治療薬、B型肝炎治療薬などの開発を手掛けてきた、抗ウイルス薬開発のエキスパート」と強調し、「他社ではないスピードで開発していきたい」と意気込みを語った。

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