■複数メーカーと産地が連携
農林水産省は、漢方薬の原料として用いられる薬用作物の国産化に向け、来年度に産地側と複数の漢方薬メーカーが栽培の新技術を検証できる共同の技術拠点農場を全国的に設置する方針だ。対象となるのは薬用作物5品目。収穫までの期間が複数年かかる品目が多い薬用作物の栽培に低コスト化、高品質化技術の導入を促し、国内での安定生産に弾みをつけ、生薬生産の脱海外依存を図りたい考えだ。
一般用を含む漢方製剤の国内市場は直近5年間で約19%増と拡大する一方、原料生薬は8割以上を中国産生薬に依存しており、日本産は約10%にとどまる。需要が拡大する中、漢方薬の安定供給に向けては薬用作物の国産化が喫緊の課題となっている。
農水省は、薬用作物の栽培面積を2018年度の550ヘクタールから25年度には630ヘクタールに拡大する目標を掲げる。これまで地域ごとに産地形成を支援してきたが、産地と複数の漢方薬メーカーが共同で、薬用作物の低コスト・高品質化生産技術を実証できる技術拠点農場を日本全域で設置する計画を打ち出す。
薬用作物が生薬として使用されるためには、日本薬局方で定められた品質規格のみならず、漢方薬メーカーが定めた基準にも適合する必要がある。ただ、農薬や農業機械の変更など栽培の省力化につながる新技術の導入で成果が見込める場合でも、栽培方法が変わることで漢方薬メーカーの品質基準から逸脱してしまうおそれがあるため、新たな栽培技術の導入にはメーカ
ーの拒否反応が強かった。
技術拠点農場では作物に合った最新の栽培技術を導入し、複数の漢方薬メーカーが参画する形で生産効率向上や生産面積拡大につながるかを検証していく。対象となる品目は、試験研究で栽培マニュアルが確立されているトウキ、シャクヤク、ミシマサイコ、オタネニンジン、カンゾウの5品目。地域に適した栽培方法を検討するための栽培実証圃の設置や、収穫作業を機械化するための既存の農業機械の改良などにかかる費用を支援する。産地と漢方薬メーカー双方が栽培方法や栽培費用など事業リスクを事前に共有でき、実生産に踏み出しやすくなる。
農水省は来年度の予算概算要求で薬用作物支援関連を前年度から6億円程度増額し、約19億円を計上。技術拠点農場の設置事業が予算として認められれば、来年2月にも全国の産地に対して公募をかける計画だ。
名乗りを上げた産地については、対象としている作物の生産量や生産面積を一定期間内にどれだけ増加させたかなど栽培実績を点数化して評価し、審査基準を満たした産地を採択する方向。採択を行う上では、作物や地域に偏りが生じないよう柔軟に審査を行う。
薬用作物は一般的な取引市場がなく、産地と漢方薬メーカーの契約栽培に委ねているのが現状。栽培の低コスト化、高品質化、生産の安定化に成功しても、ノウハウを流出させたくない漢方薬メーカーの意向もあり、各作物における栽培の成功・失敗事例が共有されず、国産化に必要な技術の進展を妨げていた側面がある。
産地と複数の漢方薬メーカーが共同した技術拠点農場を全国的に設置することで、漢方薬メーカー1社が薬用作物の産地を独占する構造から脱却し、産地が供給先として複数のメーカーを確保できるようにする狙いもある。