CD73発現細胞がどのように組織障害に応答し、ニッチの再構築に関わるのか?
筑波大学は10月7日、骨髄中で幹細胞を維持する微小環境(ニッチ)が再構築される際のメカニズムを解明したと発表した。この研究は、同大生存ダイナミクス研究センターの木村健一助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Bone Reports」に掲載されている。
画像はリリースより
間葉系幹細胞(MSCs)は、骨髄、脂肪細胞、歯髄などに存在しており、骨、軟骨、脂肪組織などの細胞に分化することができる組織幹細胞の一つ。近年、MSCsは、その多分化能や組織再生能から再生医療のツールとして注目され、虚血性疾患、脊髄損傷、骨疾患治療への実用化に向けて研究が進んでいる。しかし、組織修復・再生におけるMSCsの動態や分化能についてはいまだ不明な点が多く、治療の有効性や作用機序が不明確なまま、臨床応用が先行しているケースも少なくない。そのため、より安全で効果的な再生医療の実現のため、MSCsの生体内での動態の解明が望まれている。
MSCsは生体内で特殊なニッチによって保持されている。その一つとして知られる骨髄ニッチは、類洞血管内皮細胞、造血細胞、周皮細胞などにより形成され、さまざまな液性因子、サイトカイン、細胞間接着により緻密に制御されている。
研究グループはこれまでに、MSCsに強く発現する酵素分子「CD73」に着目し、CD73発現細胞を蛍光標識したマウスを作製した。このマウスは骨髄ニッチにおいて、MSCsのみならずニッチの中心を成す類洞血管内皮細胞を選択的に標識するが、これらのCD73発現細胞がどのように組織障害に応答し、ニッチの再構築に関わるのかは明らかになっていなかった。
MSCsはCD73陰性MSCsと比べ、生体外における高い増殖能と骨・軟骨細胞への分化能を持つ
研究では、まず、このマウスからCD73陽性MSCsとCD73陰性MSCsを単離し性質を比較した。細胞表面マーカーの発現を調べると、いずれもMSCsに特徴的なマーカーを発現しており、大きな差は見られなかった。一方、細胞増殖や分化能を解析すると、CD73陽性MSCsはCD73陰性MSCsと比較して、生体外における高い増殖能と骨・軟骨細胞への分化能を持つことがわかった。
CD73発現細胞は、骨損傷時のニッチの再構築に重要な役割を果たす
次に、このマウスの大腿部に骨折を作製し、骨修復におけるCD73陽性MSCsの動態を解析した。すると、術後4日目には骨折部位に遊走したCD73陽性MSCsが多数観察され、その後、この細胞は骨芽細胞や軟骨細胞に分化し、積極的に組織修復に関わっていた。また、CD73陽性血管内皮細胞は、骨修復中期になると骨折部位において観察され、周囲には造血幹前駆細胞が集積し、ニッチの再構築に働いていた。さらに、CD73陽性MSCsとCD73陰性MSCsを野生型マウスの骨折部位に移植し、組織再生能を評価したところ、移植されたCD73陽性MSCsは骨折部位で骨・軟骨へと分化し、骨修復を促進することがわかった。以上のことから、CD73発現細胞は、骨損傷時のニッチの再構築に重要な役割を果たすことが明らかとなった。
ヒトCD73陽性MSCsを用いた骨疾患への新たな治療法の開発に期待
今回の研究成果に基づき、今後はMSCsや類洞血管内皮細胞において、どのような機序でCD73発現が細胞の生理機能に影響を与えているかについて調べていく予定だという。
「CD73はヒトMSCsにも発現しており、今後、ヒトCD73陽性MSCsを用いた骨疾患への新たな治療法の開発が期待される」と、研究グループは述べている。
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・筑波大学 TSUKUBA JOURNAL