肺内に微量に存在する元素の成分を測定、メカニズムの手がかりを
群馬大学は10月6日、特発性肺線維症(特発性間質性肺炎)の進行や予後に関わるメカニズムの一部を明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科呼吸器・アレルギー内科学の古賀康彦助教ら、量子科学技術研究開発機構高崎量子応用研究所の佐藤隆博上席研究員、群馬大学大学院保健学研究科の土橋邦生名誉教授(現上武呼吸器内科病院院長)の研究グループによるもの。研究成果は、「Environmental Science & Technology Letters」に掲載されている。
画像はリリースより
特発性肺線維症は、慢性的な経過で肺が硬くなり、徐々に肺に空気が吸い込めなくなる疾患。平均予後が3~5年といわれており、難病に指定されている。肺線維症はその原因が特定できていないこともあり、治療薬の開発が遅れている。肺線維症は肺移植の対象疾患に指定されているが、現状、日本の肺移植待機期間は2~3年と欧米と比べてとても長いことから、肺移植を待っている間に命を落とす患者がいる。
現在、肺線維症の治療薬は2種類で、2015年以降は新薬が登場していない。他臓器と大きく異なる肺組織の特徴は、外界と直接気道を介してつながっていることだ。そのため研究グループは、外界からの何らかの刺激が肺線維症に関わりがあるのではないかと考えた。今回は、高崎量子応用研究所にあるin-air micro-PIXEと呼ばれる、物質に含まれる微量の含有元素の成分を検出できるイオンビーム分析装置に着目。in-air micro-PIXEを用いて肺内に微量に存在する元素の成分を測定し、肺線維症の病気のメカニズムの手がかりを見出すことが出来ないかと考えた。
肺線維症の肺内にシリカが多く蓄積、対照肺と比較で
最初に、対照(コントロール)肺を早期肺がんの切除肺を用いて解析。早期肺がん手術では、肺がんを取り残さないようにその周囲の正常肺も一緒に切除する。その正常肺部分にイオンビームを照射して肺内に含まれている元素の成分を調べた。肺線維症の元素解析は、肺線維症の診断目的に手術で切除された肺組織を分析。その結果、対照肺と比較して肺線維症の肺内にシリカが多く蓄積していることがわかった。
次に、肺線維症患者の肺活量の変化量を調べた。平均で150mLの肺活量が1年間で減少しており、従来の肺線維症の平均的な変化量と同じだった。なお、健常者の1年間の肺活量の減少量は、約10~20mL前後。肺活量の減少は肺線維症の進行と比例する。つまり、肺線維症が進行して肺が硬くなってくると肺活量も徐々に少なくなっていく。
肺内シリカ量「多」患者は、肺線維症進行が早い
そこで、1例1例の患者肺内のシリカの量と肺活量の減少量とを比較分析。その結果、肺内のシリカの量が多ければ多いほど肺活量の減少量が増えていることがわかった。つまり、肺内のシリカの量が多い患者は、肺線維症の進行が早いことが明らかになった。肺内のシリカの量の多い肺線維症では、少ない肺線維症に比べて生存期間がより短くなっていることもわかった。
肺線維症の患者では、生活環境や職業性環境から吸入されるシリカが肺内で異常に蓄積し、徐々に肺が硬くなることで肺活量が早いスピードで減る。その結果、肺線維症が進行して予後が不良となることが考えられた。
結晶性シリカ、PM2.5や黄砂の主成分
今回の研究で検出された結晶性シリカは、環境汚染物質であるPM2.5や季節性に日本に飛来してくる黄砂の主成分であることが報告されている。今回の研究成果によって、このような大気中のシリカ吸入の予防医学の発展や、産業衛生上の吸入予防の取り組みが進み、肺に蓄積したシリカを除去できる様な治療薬が開発されることが期待される。
その結果として、肺線維症患者だけでなく、肺線維症の発症予防にもつながる可能性があると考えられる、と研究グループは述べている。
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・群馬大学 プレスリリース