非接種者の会食等の行動と感染との関連を詳細に検討した症例対照研究
国立感染症研究所(感染研)は10月6日、新型コロナワクチンを接種していない者における新型コロナウイルス感染の社会活動・行動リスクを検討した症例対照研究(暫定報告)を発表した。この報告は、感染研感染症疫学センターの新城雄士氏、有馬雄三氏、鈴木基氏、クリニックフォア田町の村丘寛和氏、KARADA内科クリニックの佐藤昭裕氏、公立昭和病院の大場邦弘氏、聖路加国際病院の上原由紀氏、有岡宏子氏、国際医療福祉大学成田病院の加藤康幸氏、埼玉医科大学総合医療センターの岡秀昭氏、西田裕介氏、埼玉石心会病院の石井耕士氏、大木孝夫氏、新宿ホームクリニックの名倉義人氏、日本赤十字社医療センターの上田晃弘氏、複十字病院の野内英樹氏、横浜市立大学付属病院の加藤英明氏らによるもの。
画像はリリースより
新型コロナウイルスに感染するリスクが高い場面や行動として「3密」「5つの場面」等が知られるが、これらは主にクラスター事例や個々の新型コロナウイルス感染事例の記述的分析に基づく知見であり、適切にデザインされた研究に基づくエビデンスの確立が求められてきた。そこで、感染研では、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、社会活動・行動のリスクを検討するための症例対照研究を実施している。この研究デザインは、新型コロナワクチンのリスク因子解析に海外でも用いられてきた。
2021年3月末~6月初旬に行われたパイロット調査では、飲酒を伴う会食が感染リスクであることが確認され、その暫定結果が7月に報告された。ただ、パイロット調査は2医療機関で実施したものであり、サンプルサイズが小さいという制限があった。また、6月初旬以来、B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)からより感染・伝播性が増加していることが懸念されるB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)への置き換わりが進んだこと、ワクチン接種を含め感染制御のために講じられるさまざまな措置によって市民の社会活動・行動の程度や性質が刻々と変化することから、感染リスクの高い社会活動・行動を改めて評価する必要がある。そこで、今回の調査では、対象施設を増やし、新型コロナワクチン非接種者を対象としてより詳細に会食やその他の社会活動・行動と新型コロナウイルス感染との関連が検討された。今回の報告は、その6~7月分の暫定結果である。
6~7月に都内5機関の発熱外来等を受診したワクチン非接種の成人対象
2021年6月9日~7月31日までに東京都内の5か所の医療機関の発熱外来等を受診した成人を対象に、検査前に基本属性、発症2週間前(無症状であれば検査2週間前)までの社会活動・行動歴などを含むアンケートを実施。除外基準である未成年者、意識障害のある者、日本語でのアンケートに回答できない者、直ちに治療が必要な者、同アンケート調査に参加したことのある者には調査参加の打診は行われなかった。のちに各医療機関で診断目的に実施している核酸検査(PCR)の検査結果が判明した際に検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類。濃厚接触歴がある場合は、その接触の機会自体が感染の最も高いリスクと考えられるため、濃厚接触歴のない者に限定して解析が行われた。また、症状のない者についても検査を受ける動機が一様でない可能性があるため、解析対象から除外された。さらに、今回の報告では、ワクチンの効果および接種による行動変容の影響を除外するために、ワクチンを1回も接種していない者に限定して解析が行われた。
なお、調査期間中、東京都では6月20日までは緊急事態宣言、6月21日~7月11日まではまん延防止等重点措置、7月12日からは緊急事態宣言が発出されていた。また、民間検査会社における変異株スクリーニングの状況としては、6月初旬の調査開始時にはアルファ株が大部分であったが、7月下旬にはデルタ株が大部分を占めるという置き換わり期であった。
対象者753人、うち陽性257人、基礎疾患を有する者174人
都内の5医療機関において、発熱外来等を受診した成人1,525人が調査への協力に同意した。うち、発症日不明および発症から15日以降に受診した69人、濃厚接触歴があるか濃厚接触歴の記載のなかった491人、症状のない63人、ワクチン接種歴ありまたは不明の149人は解析対象から除外された。
解析に含まれた753人(うち陽性257人(34.1%))の基本特性は、年齢中央値(範囲)32(20-71)歳、男性372人(49.4%)であり、何らかの基礎疾患を174人(23.1%)で有していた。
会食・飲み会への参加は感染リスク高、回を重ねるほどリスク上昇
過去2週間以内に3密(換気の悪い密閉空間・多数が集まる密集場所・間近で会話や発声をする密接場面)や5つの場面(飲酒を伴う懇親会等・大人数や長時間におよぶ飲食・マスクなしでの会話・狭い空間での共同生活・居場所の切り替わり)に関連する場面に遭遇したかを尋ね、それぞれ遭遇していない者と比較して調整オッズ比を算出。その結果、大人数や長時間におよぶ飲食では、2.37(95%信頼区間:1.46-3.82)と高いオッズ比を示した。
さらに詳細に、会食や飲み会・食事様式・カフェ利用等について感染との関連を検討。会食・飲み会の回数、飲酒の有無、会食・飲み会の場所、会食・飲み会の時間帯について、それぞれ飲み会・会食に一度も参加していない者を参照項として感染のオッズを比較した。参加回数においては、1回参加で調整オッズ比が1.27(0.79-2.06)、2回参加で1.58(0.98-2.55)、3回以上参加で2.14(1.45-3.17)だった。飲酒の有無においては、調整オッズ比が飲酒のない会食のみ参加で1.06(0.67-1.67)、飲酒のある会食・飲み会参加で2.18(1.52-3.14)と、前回のパイロット調査の暫定報告同様、会食、特に飲酒を伴う会食への参加が引き続き感染のオッズが有意に高かった。また、会食・飲み会に参加しなかった者と比較して、会食・飲み会に参加した者では、量反応関係を伴って感染のオッズが高かった。ただし、飲酒を伴う場合は1回でも高いオッズだった。
自宅における同居者以外との会食や飲み会等への参加もリスク因子
会食・飲み会の場所においては、調整オッズ比が自宅のみでの会食・飲み会参加で2.10(1.03-4.28)、レストラン・バー・居酒屋での会食・飲み会参加で1.55(1.08-2.21)、路上や公園での会食・飲み会参加ありで2.34(0.86-6.37)だった。これにより、レストラン・バー・居酒屋などでの飲み会・会食は感染のオッズが高いが、レストラン・バー・居酒屋などでの飲み会・会食に参加していなくても、自宅における同居者以外との会食や飲み会等への参加もリスク因子であることが示された。さらに、路上や公園での飲み会・会食に参加した者は、統計学的に有意ではないが感染のオッズが高い傾向にあった。
会食・飲み会の時間帯においては、調整オッズ比が昼のみの参加で0.73(0.41-1.31)、夕方・夜にも参加で2.12(1.49-3.02)であり、いずれの状況でも、昼よりも夕方・夜の飲み会・会食において感染のオッズが高かった。これは昼よりも夜のほうが、滞在時間が長く、酔いの程度も大きいことが影響している可能性がある。
なお、パイロット調査時よりもこれらのオッズ比の点推定値は低下しているが、前回の信頼区間の範囲内にあり結果は矛盾していない。サンプルサイズが増えたことに伴って信頼区間も狭くなり、より確証の高い結果となっている。ただし、今回の調査では飲み会や会食の定義を2人以上と定義(前回は3人以上)したこと、主に1回以上会食等に参加した者の感染のオッズを算出したこと、デルタ株への置き換わりが進んでいたこと、協力医療機関が増えたこと、東京では4回目の緊急事態宣言にもかかわらず感染者数が収まっておらず、リスク行動をとる者自体が増加した可能性があることなどから、パイロット調査と直接の比較は困難である。
1人~少人数で日中の食事がリスクを上げない可能性、5人以上、2時間以上は高リスク
また、その他の食事等の様式の利用はそれぞれを利用していないものと比較して、調整オッズ比は、2人以上でのカフェや喫茶店利用で1.17(0.80-1.72)、テイクアウトの利用0.87(0.61-1.24)、出前やデリバリー等の食事配達サービスの利用1.19(0.84-1.68)、1人での外食で0.92(0.65-1.31)だった。カフェや喫茶店、食事配達、テイクアウトの利用、1人での外食は明らかなリスク因子ではなく、1人ないし少人数で日中に食事をすることが感染のリスクを上昇させない可能性が示唆された。
会食や飲み会、食事様式、カフェ利用等の様子について、それぞれ飲み会・会食に参加・カフェ利用を一度も行っていない者を参照項とする感染のオッズを検討したところ、自身を含めた最大同席人数においては、5人未満では調整オッズ比は1.40(0.96-2.05)、5人以上では2.16(1.25-3.71)だった。最大滞在時間においては、調整オッズ比が2時間未満では1.00(0.61-1.63)、2時間以上では1.87(1.27-2.77)だった。これにより、最大同席人数は自身を含めて5人以上で感染のオッズが高く、最大滞在時間は2時間以上の場合オッズが高いことがわかった。
マスク着用は有用の可能性、特に不織布マスク
また、会食や飲み会・カフェでのマスク着用と感染の関連についても検討するため、それぞれ飲み会・会食に参加・カフェ利用を一度も行っていない者を参照項とする感染のオッズを検討。その結果、「自身」が食事や飲み物を口に運ぶとき以外つけていた者では調整オッズ比が0.98(0.57-1.71)、食事や飲み物が提供されたタイミングで外した者では1.38(0.93-2.06)、つけていなかった・席について外した者では3.92(2.31-6.64)だった。「同席者」が食事や飲み物を口に運ぶとき以外つけていた者では調整オッズ比が0.96(0.51-1.78)、食事や飲み物が提供されたタイミングで外した者では1.23(0.82-1.85)、つけていなかった・席について外した者では3.84(2.33-6.31)だった。これにより、食事や飲み物を口に運ぶとき以外マスクをつけていた者は感染のオッズは変わらなかったが、食事や飲み物が提供されたタイミングで外した者では統計学的に有意ではないものの若干高い傾向を認め、マスクを着用していなかった・席についてマスクを外した者では、極めて高いオッズが示された。同席者のマスク着用状況においても同様の傾向がみられ、食事や飲み物を口に運ぶとき以外お互いにマスクを着用すること(もしくは食事中は話をしないこと)の重要性を示す結果となった。
不織布マスクを着用していた者を参照項とする調整オッズ比は、布/ガーゼマスクを着用していた者では1.45(0.95-2.22)、ウレタンマスクを着用していた者では1.66(1.08-2.54)と、不織布マスクを着用していた者と比較して、布/ガーゼマスクやウレタンマスクを着用していた者は感染のオッズが高いことが判明した。この関係は、会食歴があるものに限定した際により強くなった(布/ガーゼマスク:1.82(1.07-3.08)、ウレタンマスク:1.87(1.10-3.18))ことから、特にハイリスクな場面での不織布マスク着用の重要性を示す結果となった。ただし、会食や飲み会の時間など、他の要素による交絡の可能性もある。
2人以上のカラオケは高リスク
その他の行動歴と感染の関連についても検討するため、それぞれの行動歴がない者を参照項とする感染のオッズを検討した結果、屋内イベント等の集まりに参加した者では調整オッズ比が1.80(0.79-4.11)、屋外イベント等の集まりに参加した者では1.31(0.49-3.53)、デパートやショッピングセンターを訪問した者では0.73(0.52-1.02)、2人以上でのカラオケに行った者では9.32(1.08-80.7)、スポーツジムに行った者では1.52(0.89-2.58)だった。デパートやショッピングセンター訪問においては、感染のオッズの上昇は認めなかったが、2人以上のカラオケに行った者は6人しかいなかったものの、うち5人が陽性だった。スポーツジムの利用についても統計学的に有意ではないが高い傾向を認めた。
就業状況はリスクに大きく影響せず
次に就業・就学と感染の関連について検討した結果、就業・就学している者は、していない者と比較して調整オッズ比は0.84(0.53-1.33)だった。より詳細に就業・就学状況と感染のオッズを検討するために、就業・就学している者に限定して解析を実施。まず、フルタイム(週5日以上・終日)で働いている者はパートタイムで働いている者と比較して、調整オッズ比は1.29(0.78-2.13)だった。電車通勤をしている者は、その他の通勤手段の者と比較して、調整オッズ比は0.83(0.58-1.19)だった。これにより、就業・就学の有無、フルタイムかパートタイムか、電車通勤かどうかで感染のオッズは大きく変わらないことがわかった。
テレワーク・オンライン授業の程度については、それぞれテレワーク・オンライン授業を行っていない者を参照項とする感染のオッズを検討したところ、25%程度で調整オッズ比は1.37(0.83-2.26)、50%程度で0.70(0.40-1.23)、75%程度で1.35(0.79-2.32)、ほぼ100%程度で0.89(0.52-1.54)であり、テレワーク・オンライン授業の実施状況による明確な傾向はみられなかった。
ワクチン接種の検討を含め、対策遵守など複合的に感染リスクを下げるのが重要
最後に移動と感染の関連についても検討した結果、都心に行く機会がなかった者を参照項とする感染のオッズは、都心に行った者で1.79(0.89-3.60)、都心に住んでいる者で2.09(1.00-4.37)だった。都心に住んでいる者や都心に行った者では感染のオッズが高く、これは地域による流行状況の違いを反映している可能性があると考えられた。旅行に行かなかった者を参照項とする感染のオッズは、出張で行った者で0.96(0.32-2.84)、出張以外で行った者で1.64(0.74-3.65)と、出張以外で行った場合に若干高い傾向にあったが、統計学的に有意ではなかった。
「感染のリスクは単一ではなく、一つの感染対策で十分というものも存在しないため、今回の報告等を踏まえて、流行状況に応じて政府・自治体の要請に応じた感染対策を遵守し、感染リスクの高い行動を極力避け、ワクチン接種を検討し、複合的に感染リスクを下げることが重要である」として同報告は締めくくられている。
迅速な情報共有が目的の報告、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性あり
なお、今回の調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、交絡因子、思い出しバイアス、誤分類等の観察研究に伴うバイアスの影響を否定できない。社会的望ましさバイアスの影響もあり得るが、対象者は検査結果の判明前にアンケートを記載しており、陽性である者がハイリスクと考える行動を、より報告しやすい傾向にある、またはしにくい傾向にあるといったバイアスは避けることが可能となっている。2つ目の制限として、対照群が受診する理由は他の呼吸器感染症含め不明であり、リスクを過小または過大評価する可能性がある。例えば、新型コロナウイルス感染のリスクと(対照群で認める)他の呼吸器ウイルス感染のリスクの効果量が同程度である場合はオッズの違いとして探知できない。このことから別の対照群の追加設定も検討されるが、今回の研究では実施していない。ただし、インフルエンザなど他の多くの呼吸器ウイルス感染症が低レベルであるにも関わらず、新型コロナウイルスの流行は抑制が困難であることから、新型コロナウイルス感染に特異的なリスクについては、検出可能であると考えられる。3つ目の制限として、今回の報告では欠損値(最大13%(最大同席人数の欠損値))を除外して解析している。
4つ目の制限として、調査期間においては、アルファ株からデルタ株の置き換わり期であったが、同調査における個々の陽性例についてウイルスゲノム解析を実施していない。そのため、変異株によってリスク因子に違いがあるかどうかについては不明である。5つ目の制限として、東京都の医療機関における調査であり、他の道府県において一般化できない可能性は否定できない。6つ目の制限として、今回の報告ではワクチンを接種していない者に限定して解析しており、ワクチン接種済みの者においてはリスク因子が変わる可能性がある。最後に、今回の報告は迅速な情報共有を目的として行われた、6~7月分の暫定的な解析結果である。今後の流行・対策状況の変化、変異株の影響等によって結果が変わる可能性がある。