NAFLD/NASHの病態形成に腸内細菌の異常が関わっている可能性が示唆されていた
慶應義塾大学は10月5日、腸内細菌由来の酢酸が、その受容体であるFFAR2/GPR43を介して肝細胞のインスリン抵抗性を改善し、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の発症を抑制することを明らかにしたと発表した。この研究は、同大薬学部の長谷耕二教授、同大医学部の金井隆典教授、京都大学大学院生命科学研究科の木村郁夫教授、オーストラリア連邦科学産業研究機構のJulie M. Clarke博士らを中心とする国際共同研究グループによるもの。研究成果は、「Microbiome」に掲載されている。
画像はリリースより
NAFLDは肝臓への脂肪の蓄積や肝肥大を特徴とする生活習慣病であり、肥満や糖尿病などのメタボリック症候群とも深く関連している。NAFLD患者の4分の1程度はさらに深刻な肝疾患であるNASHを発症し、その1〜2割が肝硬変の発症に至り、さらには肝がんへと進行する。米国や東アジアにおいてNAFLDの罹患率は25%以上とされており、世界的な健康問題の一つとなっている。
NAFLD/NASHの病態形成には、腸内細菌の異常が関わっている可能性が示唆されている。そのため、腸内細菌は重要な治療標的の一つと言えるが、その具体的な方法についてはいまだ確立されていなかった。
イヌリンの摂取が、マウスの高脂肪/高フルクトース食誘導性NAFLD/NASHの発症を抑制
研究グループは今回、マウスに高脂肪/高フルクトース/高コレステロール食を20週間与えてNAFLD/NASHを誘導する病態モデルにおいて、プレバイオティクスであるイヌリンの効果を調べた。その結果、イヌリン摂取群では対照群と比べて肝肥大の抑制、血中ALT低下といったNAFLD/NASHの抑制効果が確認された。
続いて、腸内細菌叢を解析した結果、イヌリン投与群では、酢酸生産菌であるBlautia productaやBacteroides acidifaciensが増加しており、実際に腸管内および門脈血中の酢酸濃度が顕著に上昇した。そこで、酢酸化レジスタントスターチをマウスに与えて、腸管内の酢酸濃度を高めたところ、NAFLD/NASHの発症が抑制されたことから、腸内で産生された酢酸が肝臓に取り込まれることで病態を抑制していることが確認できたという。
腸内細菌由来の酢酸はGPR43を介し肝臓のインスリン抵抗性を改善、病態形成を抑制
酢酸の受容体としてFFAR2(GPR43)とFFAR3(GPR41)が知られている。このうち、GPR43欠損マウスにおいて正常マウスと比べて、肝肥大の増悪・肝コレステロールの増加・血中ALTの上昇といった病態の悪化が観察され、イヌリンによるNAFLD/NASH抑制効果も消失した。
さらに、糖代謝・インスリン抵抗性を検討したところ、GPR43欠損マウスでは野生型マウスに比べて肝臓におけるインスリン抵抗性の増悪を認めたが、全身のインスリン抵抗性については影響しなかった。以上の結果から、プレバイオティクスの分解によって腸内細菌が産生する酢酸は、GPR43を介して肝臓特異的にインスリン抵抗性を改善し、NALFD/NASHの病態形成を抑制していることが判明した。
次世代NAFLD/NASH予防・治療法の開発に期待
今回の研究成果により、腸内細菌由来の酢酸によるNAFLD/NASH抑制効果とその分子メカニズムが明らかにされた。「今後は、本研究成果を基に、酢酸の産生増強を目的としたより効果的な次世代プレバイオティクスや肝臓のGPR43に対する分子標的薬など、次世代NAFLD/NASH予防・治療法の開発につながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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