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大腸がんと強く関連する12種の腸内細菌を同定、うち2種は細胞老化を誘導-阪大ほか

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2021年10月05日 AM11:00

大腸がん患者と健常者の腸内細菌叢を大規模比較解析

大阪大学は9月30日、大腸がん患者と健常者の腸内細菌叢の大規模比較解析を行った結果、健常者にはほとんど存在せず、大腸がん患者で異常増殖している12菌種を同定し、大腸がんとの強い関連性が示唆されたと発表した。この研究は、同大免疫学フロンティア研究センター(IFReC)老化生物学の原英二教授(同大微生物病研究所兼任)の研究グループによるもの。研究成果は、「Nature Communications」に掲載されている。


画像はリリースより

近年、がんを含むさまざまな疾患に腸内細菌が関与していることがわかってきている。大腸がんは、食物繊維を多く摂取することで発症リスクが低下することが示唆されており、その病態に腸内細菌が関与している可能性がある疾患の一つだ。今回、研究グループは、大腸がんの発症を促進する作用のある腸内細菌を同定することを目的に、大腸がん患者と健常者の腸内細菌叢の大規模比較解析を行った。

口腔内病原菌12菌種が大腸がん患者で異常増殖

その結果、健常者にはほとんど存在せず、大腸がん患者で異常増殖している12菌種を同定。これらはすべて口腔内病原菌と呼ばれる偏性嫌気性菌で、別の集団においても同様の解析結果を得ることができ、大腸がんとの強い関連性が示唆された。

そこで研究グループは、この12菌種に着目し、これらの中に大腸がんの発症を促進する作用がある菌が存在するか否かを調べた。まず、発がんストレスに対する防御機構である細胞老化を誘導するか否かをスクリーニングする実験を行った。細胞周期を不可逆的に停止させる細胞老化は、それ自体はがん抑制機構として働くが、細胞老化を起こした老化細胞が組織中に過度に蓄積することは、逆に発がんを促進することがわかっている。したがって、細胞老化を誘導する菌は宿主細胞に発がんストレスを与える菌であり、またその菌は生体内で老化細胞の蓄積を促進し、大腸がんの発症を促進している可能性があると考えられた。

2菌種は細胞老化を誘導し酪酸分泌、ヒト大腸がん組織でも酪酸高濃度を確認

それぞれの菌の培養上清をヒト線維芽細胞および腸管上皮細胞に投与したところ、P. asaccharolyticaおよびP. gingivalisの培養上清がこれらの細胞に細胞老化を誘導することが判明。さらに、成分分析等により培養上清中に含まれる短鎖脂肪酸、特に酪酸が細胞老化誘導の主な原因物質であることがわかった。

次にヒトの大腸がん組織を解析したところ、2つの菌は大腸がん組織に付着・浸潤し、その周囲に細胞老化マーカーを発現する細胞が存在していた。また大腸がん組織では非がん部の組織と比較して酪酸濃度が高いこともわかった。したがって、この2つの菌が、実際にヒトの体内で酪酸を分泌することで細胞老化を誘導している可能性が示唆された。

マウス実験で、菌による酪酸産生や細胞老化と大腸がんとの因果関係を確認

最後に研究グループは、この2つの菌と大腸がんの直接的な因果関係を検証するため、大腸がんモデルマウスであるApcΔ14/+マウスに菌を投与し大腸がんの発症が促進されるかどうかを調べた。その結果、P. gingivalisを投与したマウスでは大腸腫瘍数が有意に増加し、またP. asaccharolyticaを投与したマウスでも有意差はなかったが腫瘍数が増加する傾向が認められた。

この大腸がん発症促進作用は、酪酸非産生変異株P. gingivalisでは認められなかった。さらに、P. gingivalisを投与しているマウスに老化細胞除去作用のあるセノリティックドラッグABT-263を併せて投与した結果、組織中の老化細胞の数が減少し、大腸腫瘍数の減少傾向および大腸腫瘍径の有意な縮小を認めた。

酪酸は腸管保護的に働く一方で、大腸がんの発症促進の鍵でもあった

以上より、2つの菌が酪酸分泌により大腸がんの発症を促進することがわかり、大腸がんの腫瘍進展に老化細胞の蓄積が関与している可能性が示唆された。一般的に酪酸は、腸内細菌が食物繊維を分解・代謝することで産生され、腸管保護的に働くと考えられている。P. asaccharolytica、P. gingivalisはアミノ酸を基質に酪酸を産生することが知られているが、今回の研究では、逆に酪酸がこれらの菌の大腸がん発症促進作用の鍵であることがわかった。研究グループは、「今後、腸内細菌についての研究がさらに発展し、本研究の成果が腸内細菌叢を制御することによる効果的な大腸がん予防法の確立につながることが期待される」と、述べている。

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