難治性中間型腫瘍デスモイド、腹壁発生に限ってはR1手術でも良好な術後成績が得られるのか?
名古屋大学は10月1日、難治性中間型腫瘍デスモイドについて、腹壁発生に限っては手術治療を選択することが許容され、かつR1手術(切除断端に顕微鏡で腫瘍が露出)でも良好な成績が得られることを世界で初めて報告したと発表した。この研究は、同大医学部附属病院のリハビリテーション科の西田佳弘病院教授、整形外科の酒井智久助教らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
デスモイドは、(筋)線維芽細胞様細胞が増殖する中間型腫瘍。遠隔転移はしないが局所浸潤性が強く、発生する部位によって痛み・関節可動域制限・神経まひ・嚥下障害などさまざまなADL/QOL障害を引き起こす。以前は、広範切除が治療の中心だったが、悪性腫瘍よりも高い再発率(20~60%)から治療方針は手術を回避し、経過観察や薬物治療へと変わってきた。
一方、腹壁発生については術後の再発率が低く、手術が許容されるとする報告がある。海外からの報告では、ほとんどがR0手術(切除した断面を顕微鏡で調べると腫瘍が露出していない)を目指した方法であり、術後の欠損が大きくなるため、ほぼ全例で再建手術の追加が必要となっている。
デスモイドについては悪性腫瘍と異なり、R0手術とR1手術の術後再発率に有意差がないとする報告が相次いでおり、同院でも同様の結果を報告している。腹壁発生のデスモイドの術後成績は良好(海外ではR0手術をめざす)、デスモイドではR0とR1手術の成績に有意差がない、という2つのエビデンスを統合して、腹壁発生デスモイドに対してはR1手術を実施しても術後成績は良好であるとの仮説を立てた。同院では、2009年よりデスモイドの中でも腹壁発生については前向きにR1手術を実施し、腹筋の筋膜を温存することで再建も不要となるように目指してきた。
今回、腹壁発生のデスモイドに限っては低侵襲手術であるR1手術でも良好な術後成績が得られることを明らかにすることを目的に、研究を実施した。
R1手術15人中、切除後の筋膜パッチ再建2人、再発はS45F変異型1人
2009年以来、34人の腹部デスモイド患者が同院で治療を受けている。その中で、最終治療法として、15人(44%)が経過観察のみで良好な成績を収め、15人が低侵襲手術(R1)を受け、4人がメトトレキサートとビンブラスチンによる抗がん剤治療を受けた。手術群では、手術マージンはすべて顕微鏡陽性(R1)だったが、平均45か月の追跡で、βカテニン遺伝子(CTNNB1、デスモイドの発症原因遺伝子)のS45F変異型を有する1人の患者(6.7%)のみが、再発をきたした。この研究コホートには、家族性大腸腺腫症(FAP)関連のデスモイドの患者は含まれていなかった。
また、腫瘍の切除後に筋膜パッチの再建を必要としたのは患者2人(13%)。FAPに関連しない腹壁デスモイドの患者では、経過観察だけではサイズアップした場合、積極的な治療として侵襲性の低い筋膜温存手術(R1)が推奨されることがわかった。症例数は15例と少ないが、この研究結果に基づいて、多施設共同研究で患者数を増やし、さらなる研究で検証することが必要だとしている。
治療第1選択肢は経過観察、今後は低用量抗がん剤治療との比較など評価を
同研究結果から、腹壁発生デスモイドは、R1手術で良好な成績が得られることが示唆された。しかし、治療の第1選択肢は経過観察(wait and see)とされている。症例数を増やしてR1手術の治療成績のエビデンスレベルを上げることが必要であるとともに、wait and seeや低用量の抗がん剤治療(メソトレキセート+ビンブラスチン)との比較を腫瘍制御率だけでなく、患者立脚型のQOL評価でも実施していく必要がある。
また、腹壁デスモイドに対するR1手術は、海外ではまだ前向きに実施されていない。国際的なデスモイド共同研究団体であるDTRF(Desmoid Tumor Research Foundation)等を通して、同手術法を発信することが重要であると考える、と研究グループは述べている。
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・名古屋大学 プレスリリース