「プロテオゲノミクスHLAリガンドーム解析」でHLAに提示されたペプチドを網羅的に解析
札幌医科大学は9月28日、非翻訳RNAの一部が断片的に翻訳されてがん細胞表面に提示され、Tリンパ球の標的となっていることを発見したと発表した。この研究は、同大医学部病理学第一講座の鳥越俊彦教授、金関貴幸講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cancer Immunology Research」に掲載されている。
画像はリリースより
ヒト免疫細胞(細胞障害性Tリンパ球)の攻撃によりがんが退縮することがわかっている。新しいがん治療薬である免疫チェックポイント阻害剤は、この仕組みを応用している。しかし、リンパ球がどのような分子(抗原)を認識し、がん細胞を優先的に攻撃するのかよくわかっていない。
研究グループはこれまでに、プロテオミクス技術を活用しこの問題に取り組んできた。ヒト細胞では、タンパク質をつくらないとされる非翻訳RNAが数多く転写されている。今回の研究では長鎖非翻訳RNAに着目し、リンパ球標的となっている可能性を検証した。マススペクトル解析に次世代シーケンサー解析を組み合わせた、「プロテオゲノミクスHLAリガンドーム解析」と呼ばれる新しい技術を用いた。従来型プロテオミクスはデータベース登録されている既知のタンパク配列のみを検索対象とする一方、プロテオゲノミクスはサンプル遺伝子情報をベースに解析するため、データベースにない配列も対象にできる。HLAリガンドーム解析は、細胞のHLAに提示されたペプチドを一括抽出し、網羅的に配列解読する新しい技術である。
長鎖非翻訳RNA 「PVT1」から断片的に翻訳が生じ、がん細胞表面に提示
大腸がん組織で解析を重ねたところ、PVT1と呼ばれる長鎖非翻訳RNAから断片的に翻訳が生じており、がん細胞表面に提示されていることがわかった。PVT1は、長鎖非翻訳 RNA の1つで、ゲノム上はがん遺伝子Mycの下流に存在し、Mycと協調して腫瘍形成に働くことがわかってきている。
また、複数の患者大腸がん組織中からPVT1ペプチドを認識するCD8+Tリンパ球が検出され、このTリンパ球はがん細胞を正確に識別して攻撃していることが確認された。
PVT1はがん遺伝子として働いていると考えられており、多くの大腸がん組織で発現している。がん免疫療法の標的分子としての有用性が期待されており、鳥越教授らの講座では製薬企業と共同して、大腸がんの治療に向けた人工抗体製剤や遺伝子改変リンパ球の開発を行っている。「新型コロナウイルスワクチンで用いられているmRNAワクチン技術を応用して、がん予防ワクチンの開発研究も実施中だ」と、研究グループは述べている。
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