CKD未発症の糖尿病に、睡眠の質や自律神経機能障害がどのような影響を及ぼすのか?
兵庫医科大学は9月27日、慢性腎臓病(CKD)未発症の糖尿病患者において、睡眠の「質」の低下と自律神経機能障害が腎機能低下と関連することを前向きな研究で初めて明らかにしたと発表した。この研究は、同大病院糖尿病内分泌・免疫内科学の角谷学講師、小山英則主任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」に掲載されている。
CKD発症には、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病が原因となるが、特に糖尿病はその中でも極めて重要なリスク因子だ。一方で近年、睡眠時無呼吸や睡眠の質低下などの睡眠関連因子がCKDの進行や推算糸球体濾過量(eGFR)の低下と関連することが報告され、この関係に自律神経機能障害が潜在的に関与する可能性が想定されていた。
睡眠の問題や自律神経機能障害は糖尿病において多く認められるが、これらを同時に評価し、CKD未発症の糖尿病の病態において、腎機能に対しそれぞれどのような影響を及ぼすかを統合的に検討した研究は、これまで報告されていなかった。
CKD未発症の糖尿病患者231人、非糖尿病患者523人を対象に前向き検討
研究グループは、糖尿病やCKD、メタボリックシンドローム、動脈硬化の発症に、客観的に定量化した睡眠、疲労、自律神経機能などの神経内分泌学的機能がどのように関与するかを明らかにするため、2010年に同大でHyogo Sleep Cardio-Autonomic Atherosclerosis(HSCAA)コホート研究を開始している。今回は、同コホート研究に登録された患者のうち、CKD未発症の糖尿病患者231人、非糖尿病患者523人の計754人において、睡眠時無呼吸、睡眠の質、および自律神経機能と腎機能との関連を前向きに検討した。
カプランマイヤー解析の結果、糖尿病患者では睡眠の質低下と自律神経能障害が腎機能低下と関連していた。一方、非糖尿病患者では睡眠の質低下と睡眠時無呼吸が関連していた。これらの因子の影響を同時に検討したCox比例ハザードモデルにおいては、糖尿病患者では睡眠の質の低下がアウトカムと依然有意な関連を示し、自律神経機能障害も関連する傾向を示していた。一方、非糖尿病患者では睡眠の質の低下のみが有意な関連を示していたとしている。
睡眠の質低下がどのような機序で腎機能低下に影響するかなどの基礎研究も必要
今回の研究成果により、CKD未発症の糖尿病の病態では、睡眠の質の低下と自律神経機能障害は、腎機能悪化の重要なリスク因子であることが確認された。特に睡眠の質は、糖尿病の有無に関わらず、CKD未発症の患者での腎機能に対する重要なターゲット因子だった。このことは、糖尿病における腎機能悪化予防の観点では、普段の睡眠の質や自律神経機能にも着目する必要があることを示しており、糖尿病治療を行う臨床現場においても極めて重要な知見であるとしている。
「今後は良好な睡眠の質を維持、もしくは質の改善を目指した介入を行うことで、腎機能の低下の予防に実際に寄与できるか否かの検討が必要だ。さらに、睡眠の質の低下がどのような機序で腎機能低下に影響しているのか、糸球体や尿細管といった腎実質に、どのような影響を及ぼしているのかといったメカニズムに迫る基礎的検討も必要だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・兵庫医科大学 ニュースリリース