患者由来iPS細胞樹立、ヒト由来大脳皮質・骨格筋モデルを世界で初めて作製
藤田医科大学は9月27日、福山型筋ジストロフィー(Fukuyama Congenital Muscular Dystrophy:FCMD)患者よりiPS細胞を樹立し、ヒト由来の大脳皮質モデルと骨格筋モデルを世界で初めて作製し、低分子化合物Mn-007が有効である可能性を発表した。この研究は、同大臨床遺伝科の池田真理子准教授、神戸大学の青井貴之教授、小柳三千代助教、京都大学iPS研究所の櫻井英俊准教授、東京大学の戸田達史教授、カリフォルニア大学の渡邊桃子主任研究員らの研究グループによるもの。研究成果は、「iScience」に掲載されている。
画像はリリースより
FCMDは、日本特有の小児難病で、膜タンパク質の表面にある糖鎖αジストログリカンが欠損することがわかっている。糖鎖がないことで細胞と細胞のつながりが破綻し、神経細胞の移動がうまくいかなくなり、大脳皮質異常が起きるとされている。
FCMDの大脳では皮質の形成異常をきたすと考えられているが、FCMD患者と同じ遺伝子の変化を有するネズミの脳はほぼ正常であり、病態を再現することが困難だった。そこで研究グループは、あらゆる細胞に分化する能力を持つヒトiPS細胞の特性を活かして試験管内で大脳皮質オルガノイドを作ることで、その病態を再現し、FCMDの病態解明や治療法開発に役立てたいと考えた。
また、これまでに池田准教授らは、FCMDに効果のある低分子化合物を探索する研究を行ってきた。その中で、糖鎖を増強する治療法に着目し、低分子化合物Mn-007を点滴注射で動物の末梢血に投与したところ、血液-脳関門を通過し大脳に移行することを発見。つまり、Mn-007は脳の症状を改善する新規の治療薬になる可能性があることがわかった。
筋・大脳皮質オルガノイドにMn-007投与で糖鎖が回復、大脳皮質形成異常が一部改善
池田准教授らは、自らが診療を行っているFCMD患者の末梢血より福山型筋ジストロフィー患者由来のiPS細胞を複数株樹立することに成功。FCMDでは骨格筋・大脳の表面にあるタンパク質αジストログリカンの糖鎖の量が低下しており、FCMD患者由来の細胞においても、この糖鎖量が低下していた。
また、iPS細胞より試験管内で分化させた筋肉組織や大脳組織(三次元大脳オルガノイド)においても、同様に糖鎖量が低下していた。その大脳オルガノイドは胎児脳にみられるような形態異常を示し、大脳皮質の形成異常に似た病態を示した。
福山型患者と正常対照者から、それぞれ樹立したiPSより大脳オルガノイドを作製。大脳の大きさは患者でやや小さいが、大脳皮質マーカーの発現がみられ、大脳皮質の作製に成功した。顕微鏡で観察すると、福山型のiPS細胞由来の大脳皮質オルガノイドは表面が不整であり、大脳皮質内のグリア細胞の移動異常が観察された。皮質板は厚く不整で、細胞の移動異常が示された。
最後に、Mn-007を筋・大脳皮質オルガノイドに投与。その結果、糖鎖が回復し、大脳皮質の形成異常が一部改善した。
今後のFCMD病態解明や治療薬の効果検討に役立つ可能性
今回の研究では、FCMDの病態解明のために大脳皮質や骨格筋を患者由来iPS細胞やその分化誘導法を用いて再現することができた。同成果は今後のFCMD病態解明や治療薬の効果検討に役立つと考えられる。
また、開発が難しいと考えられる低分子化合物を用いた中枢神経系の治療法開発に期待できる成果と考えられる。FCMDの類縁疾患であるαジストログリカノパチーは世界中に存在し、その疾患にも、同化合物が有効である可能性があると考えられる、と研究グループは述べている。
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・藤田医科大学 プレスリリース