体内のリンが尿中に過剰に排泄される「X染色体連鎖性低リン酸血症」
協和キリン株式会社は9月24日、希少な遺伝性代謝性骨疾患であるX染色体連鎖性低リン血症(XLH)の成人患者における、クリースビータ(R)(一般名:ブロスマブ)の持続的な有効性を示す新たなデータについて論文報告したことを発表した。同論文は「Rheumatic and Musculoskeletal Diseases」に掲載されている。
X染色体連鎖性低リン酸血症(XLH)は、遺伝的な原因によって血中の繊維芽細胞増殖因子23(FGF23)が過剰となり、体内のリンが尿中に過剰に排泄され低リン血症となることで、骨、筋肉、関節に異常をきたす希少な遺伝性疾患。XLHは生命を脅かす疾患ではないものの、その負担は生涯にわたって継続し、進行性の疾患でもあるためQOL(生活の質)を低下させる可能性がある。リンは体のエネルギーレベル、筋肉の機能、健康な骨や歯の形成に必要となる重要なミネラル。XLHではリンが尿中に過剰に排出され、また腸からの吸収も悪くなるため、血液中のリン濃度が慢性的に低くなる。
XLHの遺伝子異常を直接的に治療する根本的治療法は確立されていないが、過剰なFGF23の作用を抑制することで血液中のリン濃度を正常なレベルに回復・維持できる治療法が確立されれば、この疾患の症状の進展の阻止が期待される。また、XLHは遺伝性くる病・骨軟化症の中でも最も一般的な病気で、家族歴のない人でも発症することがあるが、通常は遺伝子異常を持つ親から引き継がれる。
抗FGF23抗体「ブロスマブ」、XLH治療剤として世界各国で承認続く
ブロスマブは、協和キリンにより創製・開発された、FGF23に対する遺伝子組換え完全ヒト型モノクローナルIgG1抗体。FGF23は、腎臓からのリン排泄と活性型ビタミンDの産生を調節して血清中のリン濃度を低下させるホルモンで、XLHでは、過剰に存在するFGF23により血清リン濃度が減少し、低リン血症が引き起こされる。同剤は、FGF23に結合して患者の過剰なFGF23を阻害することによって腎臓からのリンの再吸収を促進し、活性型ビタミンDの産生を増加させ、リンとカルシウムの腸管吸収を促進する。
同剤は2018年から臨床使用が可能になった。最初に承認されたのは欧州委員会(European Commission)で、X線画像により骨疾患が認められた1歳以上の小児および骨格が成長段階にある青少年におけるXLHの治療を目的として、条件付き販売承認が与えられた。その後2020年にはこの承認が拡大され、骨格の成長が終了した青年および成人も対象となった。北米においては、2018年4月に生後6か月以上のXLH患者に対して米国食品医薬品局(FDA)から、同年12月に1歳以上のXLH患者に対してカナダ保健省から、それぞれ承認されている。
日本においては、2019年9月にFGF23関連低リン血性くる病・骨軟化症の治療薬として厚生労働省から承認を受けた。また2020年12月、FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の治療のための在宅自己注射が保険適用になった。さらに2020年1月、スイスの医薬品承認機関であるスイスメディックは、同剤をXLHの成人、青年および小児(1歳以上)の治療薬として承認した。加えて2020年6月、FDAは2歳以上の腫瘍性骨軟化症(TIO)の患者に対して同剤を承認した。TIOは、FGF23を過剰産生し、骨の軟化や脆弱化を生じる腫瘍の発生を特徴とする希少疾患。協和キリンとUltragenyx Pharmaceutical Inc.は、両社間で締結された提携およびライセンス契約に基づき、本剤のグローバルな開発と商業化を共同で行っている。
成人XLH患者への治療96週時点でPROs改善と血清リン濃度上昇を確認
今回論文発表されたデータでは、成人XLH患者が痛み、体のこわばり、疲労、身体機能および歩行機能の不調を経験すること、またブロスマブによる治療の結果、96週後にはベースラインからの有意な改善をもたらすことが示唆された。
同データは、ブロスマブの成人XLH患者に対する有効性および安全性の評価を目的とした、無作為化二重盲検プラセボ対照期間と、それに続く非盲検の延長期間からなる第3相試験で得られた結果だ。同試験では、主要評価項目である24週間後の血清リン濃度が、プラセボと比較して統計的に有意に上昇したことが認められた。
24週間後、すべての患者がブロスマブによる治療に切り替えられ、96週までの間、代謝および生化学マーカー、患者報告アウトカム(PROs)および運動機能に関するデータが収集・分析された。今回の論文は、PROs分析と運動機能スコアの結果に焦点をあてて報告されている。
96週時点において、Western Ontario and the McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)、Brief Pain Inventory-Short Form(BPI-SF)、Brief Fatigue Inventory(BFI)などのPROsに、ベースラインと比較して統計的に有意な改善が認められた。また6分間歩行試験(6MWT)で測定される歩行機能についても、ベースラインと比較して96週目に統計的に有意な改善が認められた。他方、体のこわばりや痛み、骨折の治癒といったPROsは、48週時点においても改善が見られることが既に報告されている。
同論文の筆頭著者である、フランス・パリのコシャン病院のDr. Karine Briotは、「本研究では成人のXLH患者が痛み、こわばり、疲労、歩行困難など、多くの身体的課題に直面することが再認識された。これまでにもブロスマブは、プラセボと比較して成人XLH患者のリンのホメオスタシスを改善することが示されていたが、今回の新たな結果は、成人XLH患者が長期的な合併症や身体的障害を有していても、ブロスマブで治療することによって、その身体機能や生活の質をも長期的に改善できることを示唆している」と、述べている。
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・協和キリン株式会社 ニュースリリース