特定の善玉菌だけを増やすことができる次世代型プレバイオティクスの開発を目指して
近畿大学は9月23日、ビフィズス菌を選択的に増殖させることのできる「次世代型プレバイオティクス」となり得るオリゴ糖を発見したと発表した。この研究は、同大生物理工学部食品安全工学科の栗原新准教授、新潟大学農学部農学科 食品科学プログラムの中井博之准教授、石川県立大学大学院平野 里佳博士後期課程3年生を中心とする研究グループによるもの。研究成果は、「Gut Microbes」に掲載されている。
画像はリリースより
プレバイオティクスは、腸内環境を改善する目的でサプリメントや食品添加物として経口摂取されるが、大腸まで到達する必要があるため、ヒトには消化されない性質を持つ難消化性糖質が用いられる。
しかし、大腸に到達したプレバイオティクスは腸内に常在するさまざまな細菌に利用されるため、腸内常在細菌に横取りされた場合、目的の善玉菌に行き渡らない可能性がある。今回の研究の過程でも、既存のプレバイオティクスの多くがさまざまな腸内常在細菌に利用される可能性が明らかになっている。さらに、近年の腸内細菌学の進展により、さまざまな腸内常在細菌がヒトに悪影響を与えていることも明らかになっているため、プレバイオティクスを開発する際は、悪い働きをする腸内常在細菌が増殖しないよう気を配る必要がある。研究グループは今回、これらの課題を解決する目的で、特定の善玉菌だけを増やすことができる「次世代型プレバイオティクス」の開発を目指して研究を行った。
オリゴ糖「GalRha」添加で善玉菌増殖が大きく促進、GalRha利用のための菌体分子も同定
研究グループは、次世代型プレバイオティクスを探し出すため、ヒト腸内常在菌叢のうち、優勢な27菌種およびビフィズス菌・乳酸菌・病原菌を、オリゴ糖「ガラクトシル-β1,4-ラムノース」(GalRha)を添加した培地と添加していない培地で培養し、生育度を比較した。その結果、腸内常在菌叢優勢種や病原菌はほとんど増殖が促進されず、乳酸菌やビフィズス菌などの善玉菌は増殖が大きく促進された。
次に、GalRhaのみを炭素源として添加した培地で、ビフィズス菌野生株とビフィズス菌BL105A_0502変異株を培養したところ、変異株の生育が大幅に遅れたことから、基質結合タンパク質BL105A_0502が、ビフィズス菌のGalRhaの利用に必要であることが示された。また、GalRhaを含む培地でビフィズス菌とディフィシル菌を共培養し、単菌培養時のディフィシル菌の生菌数と比較したところ、ビフィズス菌野生株との共培養時のディフィシル菌の生菌数は大幅に減少した。これに対し、ビフィズス菌BLIJ_2090(BL105A_0502のホモログ)変異株との共培養のディフィシル菌の生菌数は、単菌培養時のディフィシル菌の生菌数と比較して差が見られなかったという。
GalRhaとビフィズス菌を組み合わせ、マウスでディフィシル菌の生育を抑制
さらに、ヒトへの応用を視野に入れ、GalRhaを含む培地でヒト糞便由来細菌、ビフィズス菌、ディフィシル菌を同時に培養すると、ディフィシル毒素産生量はGalRhaを添加してビフィズス菌と共に培養することで大幅に減少した。また、マウスにディフィシル菌を感染させると経日的に体重が減少し、その後の回復は見られなかったが、ディフィシル菌感染1日目、3日目、5日目にビフィズス菌とGalRhaを同時投与した場合は、5日目にかけて経日的な体重減少が見られたものの、7日目にはディフィシル菌感染前レベルにまで体重が回復した。
これらの結果から、GalRhaとビフィズス菌を組み合わせることによって、偽膜性腸炎の原因となるディフィシル菌の生育が抑制されることが明らかになった。同研究成果により、難病として知られる偽膜性腸炎の新たな治療法開発につながる可能性が示されたと言える。
糖尿病、クローン病、肥満治療にも応用できる可能性
今回の研究成果は、GalRhaを治療に応用するための一歩となった。今後、投与量や投与方法を工夫し、ヒトの臨床試験を行うことで、次世代型プレバイオティクスを活用した偽膜性腸炎の新たな治療法を開発できる可能性がある。同様の手法を用いることで、ビフィズス菌のみならず、乳酸菌、酪酸菌、アッカーマンシア菌などの善玉菌を選択的に増殖させる技術を開発することもできるという。また、2型糖尿病、クローン病、1型糖尿病、肥満で特徴的に減少している腸内細菌を選択的に増殖させることで、これらの疾患を治療できる次世代型プレバイオティクスを開発できる可能性があるとしている。
研究グループは「個人差の大きい腸内細菌叢に対応し、一人ひとりに最適なオリゴ糖を選択することで、オーダーメイドプレバイオティクスの開発にも期待できる」と、述べている。
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