過去の研究でD-セリンが加齢とともに変動すること、腎臓機能と高い相関があることを発見
医薬基盤・健康・栄養研究所(NIBIOHN)は9月15日、生体中に微量に存在し、加齢とともに変動するD-アミノ酸のひとつであるD-セリンに、腎臓の細胞増殖を促進して機能維持する作用があることを発見したと発表した。この研究は、同研究所KAGAMIプロジェクトの木村友則プロジェクトリーダー(兼 難治性疾患研究開発・支援センター長)と部坂篤研究調整専門員、大阪大学大学院医学系研究科腎臓内科の猪阪善隆教授らとの研究グループによるもの。研究成果は、「Kidney360」オンライン版に掲載されている。
画像はリリースより
慢性腎臓病は世界的な問題で、人口高齢化とともに頻度が高くなっている。日本においては人口の1割、世界では8.5億人が慢性腎臓病だと推定されている。腎臓病が進行すると心不全や心筋梗塞を代表とする循環器疾患など致死的疾患の合併症のリスクが上昇し、その治療も必要となる。また、最終的に血液、腹膜透析療法や腎臓移植が必要になるが、日本では毎年3万人以上の慢性腎臓病患者に透析療法が導入され、30万人を超える透析患者がいる。透析療法は患者の生活の質を大きく落とすものであり、また医療費を圧迫する問題でもある。しかし、現在までに慢性腎臓病の根本的な治療法はなく、透析患者数の増加を止めることはできていない。
アミノ酸にはL体とD体のキラルアミノ酸(鏡像異性体のアミノ酸)が存在する。体内にはL体しか存在しないと長い間考えられていたが、研究グループはこれまで、体内にごく少量のD-アミノ酸が存在し、特にD-セリンは加齢とともに変動すること、さらには腎臓の機能と高い相関があることを発見してきた。腎臓の老化による腎機能障害があると、D-セリン濃度が上昇する。そこで今回、腎臓病の治療法開発を目的としてD-セリンに着目し、腎臓に対する作用機序を解明するために研究を行った。
D-セリンが腎臓の細胞増殖を促進することでモデル動物の腎臓のサイズが拡大し、機能が向上
研究グループは、ヒトの生体腎移植ドナーが、片方の腎臓を摘出、尿への排泄が減ることにより、血中D-セリン濃度が上昇することを見出していた。そこでD-セリンに着目し、腎移植ドナーモデル動物を用いて腎臓に対する作用を検討した。その結果、D-セリンを投与した残存腎臓において血中D-セリン濃度が上昇し、細胞増殖が促進されることで腎臓の臓器サイズが大きくなり、機能を高めていることを見出した。
さらに、D-セリンの作用メカニズム解析の結果、これまでD-アミノ酸を認識しないとされていた「細胞内アミノ酸シグナル」を介する作用であることも明らかとなった。
加齢に伴う腎機能低下の抑制や新規治療薬の開発に期待
今回の研究により、これまで有効な治療法が確立していなかった腎臓病の新しい治療方法開発への可能性が示された。「本研究成果を利用することにより、腎臓機能を修復することができれば、透析患者数の減少にもつながることが期待されるとともに、D-セリンの作用機序を解明することで、加齢に伴う腎機能低下の抑制や、新規治療薬の開発にもつながることが期待される」と、研究グループは述べている。
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