■厚労省が産業ビジョン
厚生労働省は13日、「医薬品産業ビジョン2021」を公表した。革新的創薬の推進に向けて国内製薬企業は、アカデミアやベンチャーを含めたネットワーク構築をグローバルで進め、アカデミア・ベンチャーシーズを積極的に導入するなど水平分業構造に転換し、創薬力の強化を図る必要性を示した。一方、後発品メーカーには、価格だけではなく品質や安定供給への評価を踏まえ医療現場や患者に選択されるビジネスモデルの確立を求めた。医薬品産業政策の進捗状況を確認するための重要達成指標(KPI)は今後実施する実務レベルでの官民対話で検討する方針。
●後発品の価格競争は限界
ビジョンの策定は8年ぶり。今後5~10年を視野に、世界有数の創薬先進国として革新的創薬により健康寿命の延伸に寄与することや、医薬品の品質確保や安定供給を通じて、良質な医療を受けられる社会を次世代に引き継いでいくことを目指し、内外資の別を問わず医薬品産業政策を推進していくと宣言している。
従来は製薬企業であれば、全てを産業政策の対象としてきたが、「革新的創薬」「後発品」「医薬品流通」の3点に焦点を当て、医療と経済の発展を両立するための「経済安全保障」の視点を加えた産業政策を展開していく。
革新的創薬では、ベンチャー企業やアカデミアを重要な支援対象に位置づける。創薬エコシステムによる協業の実現により、アカデミア・ベンチャーからのシーズ導出を通じてイノベーション創出を目指す。
海外製薬大手に比べ企業体力で劣る日本企業の売上高に占める研究開発比率は、13年の18%から19年には17%に低下。一方、米国企業は15%から18%に増加していることから、「日本企業の研究開発力の低下が懸念されている」と厳しく指摘。「アカデミア・ベンチャーを含めたネットワーク構築をグローバルに進め、企業や国籍、業態の枠を超えてエコシステムの構築を進めていくことが必要」とし、一つの企業が研究開発や生産を受け持つ垂直統合ではなく、異なる企業が得意分野を生かしてリスク分散し、迅速に実用化へと結びつける水平分業構造に転換するよう促した。
創薬ベンチャーの成長可能性が低い背景には、ベンチャーキャピタルからベンチャーへの投資が少ない現状もある。製薬企業自らの投資額を補うために、ベンチャー・キャピタルによる外部資金をベンチャー企業に呼び込むなど、「早期段階からの製薬企業の関与や助言・指導がアカデミア・ベンチャーで発見されたシーズを実用化する上では必要」と提言した。
一方、この10年で使用割合が約2倍に拡大している後発品については、「使用割合が約8割となっている今、少なくとも国内市場では大きな量的拡充が期待できない中、医薬品に対して当然求められる品質の確保と安定供給が十分に達成されていない」と分析。
価格で勝負する後発品のビジネスモデルでは品質確保が難しいとの限界点を指摘し、「価格だけではなく、品質確保や安定供給の取り組み・担保状況の評価を踏まえ、医療現場・患者に信頼され選択されるビジネスモデルを確立していく必要がある」とした。
品質確保と安定供給体制が整備され、情報開示・提供が行うことができ、海外展開や新領域への挑戦、製造業への特化など自社に合った事業戦略を立てられる事業者が「後発品企業の中核を担うことが期待される」と展望した。
一方、経済安全保障では医薬品供給について「緊急時も含めて供給不安が起きないよう平時からの備えが必要」とし、新興・再興感染症発生時における治療薬やワクチンの臨床試験の枠組みや、日本では導入されていない緊急使用許可制度のあり方も検討すべきとした。