がん免疫療法が効かない原因「ミトコンドリアの不足」「T細胞の不足」を解決するには?
京都大学は9月14日、がん細胞を攻撃するT細胞内に独自に開発した化合物「EnPGC-1」を送り込むことで、T細胞内のミトコンドリア活性を高め、さらにはT細胞の数を増やし、マウスの腫瘍に対する攻撃性を高めることに成功したと発表した。この研究は、同大アイセムス(物質-細胞統合システム拠点)のガネシュ・パンディアン・ナマシヴァヤム講師、杉山弘連携主任研究者(兼 理学研究科教授)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Cell Chemical Biology」のオンライン版に掲載されている。
T細胞は、がん細胞の細胞表面にある受容体を標的にして攻撃する一方で、がん細胞はこのT細胞を不活性化する分子「PD-L1」を発現している。このPD-L1が、PD-1と呼ばれるT細胞表面の受容体に結合することで、免疫抑制が起こるが、この結合を阻止するオブジーボなどの治療薬は、がん治療に革命をもたらした。しかし、がん患者の半数以上で、このがん免疫療法がうまく効かないという課題もある。原因の一つとして、がん細胞と戦うT細胞内に、エネルギーを供給するミトコンドリアの数が不足している上に、T細胞自体の数が不足していることが挙げられる。
そこで研究グループは今回、T細胞のミトコンドリア産生を活性化することによりPD-1阻害剤を用いたがん免疫療法の効果を高めることを目指し、PGC-1というミトコンドリアの生合成と代謝に不可欠な遺伝子を標的に研究を進めた。
PD-1阻害と開発したEnPGC-1を組み合わせた免疫療法で抗腫瘍免疫が増強、モデルマウスの生存率向上
まず、PGC-1を活性化する特定のDNA配列に選択的に結合することのできるピロールイミダゾールポリアミド(PIP)をスクリーニングにより選び、それに遺伝子を活性化するための酵素をリクルートする残基を付加して、これをEnPGC-1と名付けた。
EnPGC-1を作用させたマウスでは、T細胞内のミトコンドリアが活性化することでT細胞の数を増え、その寿命を伸ばすことに成功。また、腫瘍をもつマウスにEnPGC-1とPD-1阻害を組み合わせた免疫療法を施したところ、マウスにおける抗腫瘍免疫が強まり、生存率が向上したという。
EnPGC-1は2型糖尿病や高脂血症などの治療法開発にも役立つ可能性
PGC-1シグナルは、ミトコンドリアによるエネルギー代謝に不可欠であり、これを活性化するEn-PGC-1は、2型糖尿病や高脂血症など他の疾患の治療薬開発に役立つ可能性がある。今後は目的の細胞以外のDNAに作用することを防ぐため、EnPGC-1をT細胞だけに送り込む方法の開発を進める予定と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・京都大学アイセムス 物質-細胞統合システム拠点 研究