冠動脈過収縮反応ブタで、冠攣縮性狭心症の病態解明を目指す
東北大学は9月14日、低出力パルス波超音波(low-intensity pulsed ultrasound:LIPUS)が、冠動脈外膜のリンパ管新生を促進し、抗炎症効果を発揮することで治療効果をもたらすことを、冠攣縮のブタモデルを用いた検討により明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学系研究科循環器内科学分野の下川宏明客員教授、安田聡教授、松本泰治前講師、進藤智彦講師、西宮健介助教、渡辺翼医師らの研究グループによるもの。研究成果は、「PLOS ONE」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
冠攣縮性狭心症は繰り返す胸痛発作や突然死の原因となることが知られている。研究グループは、冠攣縮性狭心症の動物モデル(冠動脈過収縮反応ブタ)を用いて、冠攣縮性狭心症の病態解明を行ってきた。この動物モデルでは、冠攣縮部位の冠動脈外膜に炎症細胞や炎症性サイトカインの集積が観察され、また炎症との関連が示されている血管周囲を取り巻く栄養血管の増生、脂肪細胞の肥大化などの変化が生じていることを確認している。これまでの研究で、心臓リンパ管を縛ってリンパ液の流れを滞らせると、この炎症性変化が悪化、引いては収縮反応を増強させることを明らかにしてきた。
しかし、この冠動脈外膜の炎症に対する直接的な治療介入は、現行の治療では極めて困難だった。これまで、下川客員教授らの研究グループは、LIPUS治療が血管を弛緩させる効果のある一酸化窒素を合成する酵素の一つである内皮型NO合成酵素(eNOS)の発現を上昇させたり、血管の新生を誘導したりすることを明らかにしてきた。今回、研究グループは、LIPUS治療がリンパ管新生を介した抗炎症効果をもたらし、冠攣縮反応を抑制することを明らかにした。
ステント留置後LIPUS治療群、未治療群に比し冠動脈過収縮反応が有意に弱く
今回の研究では、LIPUS治療が冠動脈に対する抗炎症効果をもたらすのではないかとの着想の元、冠動脈に局所的な炎症を作成することによる冠動脈過収縮反応ブタモデル(冠動脈に薬剤溶出性ステントを留置することでステント両端部位に炎症を惹起させる)を用いて治療効果を検討した。その結果、ステント留置後にLIPUS治療を受けた群では、未治療群に比し、冠動脈過収縮反応が有意に弱くなっていることを認めた。
また、病理学的検討において、LIPUS治療群における炎症性サイトカインの減少、冠動脈過収縮反応の重要分子であるRho-kinase活性の低下が観察された。
LIPUS治療によるeNOS増加、リンパ管新生因子誘導でリンパ管機能亢進、結果的に炎症細胞など排除
LIPUS治療の作用機序を検討した結果、心臓リンパ管の機能が亢進していることを生体内で確認し、組織学的検討においても、eNOS発現の増強、リンパ管新生因子の増加、リンパ管密度の増加が観察された。
以上の結果から、LIPUS治療によるeNOSの増加によりリンパ管新生因子が誘導され、リンパ管が新生することでリンパ管機能が亢進し、結果的に炎症細胞や炎症性サイトカインが排除されたことで、LIPUS治療は抗炎症・抗冠攣縮効果を示したことが推察された。
動脈硬化や血管炎など炎症関与の心血管疾患にも有効な可能性
今回の一連の実験結果から、炎症組織において、LIPUS治療は、eNOSの活性化を介してリンパ管新生を促進し、リンパ管の機能を増強することで抗炎症効果をもたらすことが初めて示された。
LIPUS治療によるリンパ管新生の促進作用は、冠攣縮性狭心症だけでなく、動脈硬化や血管炎、動脈瘤などの炎症が関与する心血管疾患に対しても有効である可能性がある。LIPUS治療は、今までにない低侵襲性の治療法として今後の適応拡大が期待される、と研究グループは述べている。
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