医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 新型コロナの増殖を強力に抑える新規化合物を発見、デングや黄熱等にも有効-北大ほか

新型コロナの増殖を強力に抑える新規化合物を発見、デングや黄熱等にも有効-北大ほか

読了時間:約 3分24秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年09月15日 AM11:30

核酸化合物ライブラリーからコロナとフラビウイルスに有効なものをスクリーニング

北海道大学は9月14日、5-ヒドロキシメチルツベルシジン()が新型コロナウイルス()に対して強力な抗ウイルス活性を有することを発見したと発表した。この研究は、同大大学院薬学研究院の前仲勝実教授、松田彰名誉教授、同大学院薬学研究院博士課程の上村健太朗氏、同人獣共通感染症国際共同研究所の澤洋文教授と佐藤彰彦客員教授らの研究グループが、徳島大学大学院医歯薬学研究部(薬学域)の南川典昭教授、田良島典子講師ら、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンのウイリアム・ホール教授との共同研究として行ったもの。研究成果は、「iScience」にオンライン先行掲載されている。


画像はリリースより

近年、世界ではさまざまな新興・再興ウイルス感染症が流行しており、現在パンデミックを引き起こしているSARS-CoV-2感染症()に関しては、人々の健康のみならず、経済活動にも大きな影響を及ぼしている。また、デング熱等の顧みられない熱帯病についても、完全に有効なワクチンや治療薬は存在せず、公衆衛生学的な問題となっている。

北海道大学大学院薬学研究院の創薬科学研究教育センターは、日本承認薬約3,000化合物をはじめ、これまでに同大学で合成されたさまざまなタイプの化合物を保有している。SARS-CoV-2やデングウイルス(DENV)等のRNAウイルスは、自身のゲノムを複製する際にRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)を介した核酸合成を行う。このRdRpはウイルスによって形はさまざまだが、機能的には似ている部分がある。そのため、ウイルスのRdRpに作用する核酸化合物は、さまざまなウイルスに対して有効にはたらくことが期待される。そこで今回、研究グループは、創薬科学研究教育センターが保有する、核酸化合物を母核とする化合物ライブラリーに着目し、コロナウイルスやフラビウイルスに対する薬効があるかどうかを検討した。

デング、ジカ、黄熱、日本脳炎、西ナイルウイルスに有効な「HMTU」を同定

研究グループは初期評価として、創薬科学研究教育センターの核酸化合物を母核とするライブラリーを用いたスクリーニングを実施し、DENVに対して抗ウイルス活性を有する化合物を複数選抜した。その後、DENVと同属であり、ヒトに重篤な疾患を引き起こすジカウイルス(ZIKV)、(YFV)、日本脳炎ウイルス(JEV)、ウエストナイルウイルス(WNV)を用いた薬効評価を実施し、これらすべてのウイルスに対して強力な抗ウイルス活性を有する化合物をHit化合物として選抜した。

初期評価では、培養細胞にウイルスを感染させ、ウイルス増殖に伴い出現する細胞変性効果(CPE)をウイルス感染の指標とし、各化合物添加によるCPEの抑制を測定。これにより、化合物のウイルス増殖阻害活性を評価した。DENV感染モデルによる薬効評価から、5-ヒドロキシメチルツベルシジン(HMTU)が強力な抗ウイルス活性を有することが判明し、続いて、DENVと同属のウイルスに対する薬効評価を実施した結果、HMTUはZIKV、YFV、JEV、WNVに対しても、強力な抗ウイルス活性を有すると判明した。

HMTUはSARSウイルス、新型コロナウイルスの複製も強力に抑制

COVID-19流行後は、SARS-CoV-2やヒトコロナウイルス(OC43株および229E株)、2002年から2003年に流行したSARS-CoVに対しても同様の評価を行い、抗コロナウイルス活性や作用メカニズムを解析した。その結果、HMTUはヒトコロナウイルス(OC43株、229E株、SARS-CoV)に対する強力な抗ウイルス活性を有し、パンデミックの原因となっているSARS-CoV-2に対してもウイルスの複製を強力に抑制することを発見した。

HMTUはウイルスRdRpによるRNA合成伸長を阻害

核酸代謝拮抗薬は、細胞に取り込まれた後にリン酸化され、3リン酸化体となることで抗腫瘍効果や抗ウイルス活性を発揮することが知られている。そこで、HMTUの3リン酸化体(HMTU-TP)を合成し、ウイルスRdRpによるRNAの合成伸長を阻害するか検討したところ、HMTU-TPはRdRpによってRNA鎖に取り込まれ、その後のRNA合成伸長を阻害することがわかった。また、化合物の添加タイミングを変えた感染実験により、HMTUはSARS-CoV-2感染過程の後期において作用し、ウイルスRNAの複製を阻害すると判明した。

これらの結果から、HMTUはウイルスRdRpによるRNAの合成伸長を阻害することで、ウイルスRNAの複製を抑制し、それに続くウイルスタンパク質や子孫ウイルスの産生を抑制する化合物であることが示唆された。

他の核酸代謝拮抗薬より細胞毒性が低い可能性

現在までに、SARS-CoV-2やDENV等の新興・再興ウイルス感染症に対する完全に有効かつ安全な治療法は確立されていない。今回の研究成果は新たな治療薬の開発研究に貢献できると考えられるもの。一方で、核酸代謝拮抗薬、特にツベルシジン誘導体は細胞に対して強い毒性を示すことが知られており、ツベルシジン誘導体の開発には注意すべき点がいくつか存在する。今回の研究により見出されたHMTUは、試験した細胞においては顕著な毒性は認められていない。「今後、さらなる最適化研究により、より高活性かつ安全な化合物へと仕上げることで、新興・再興ウイルス感染症治療薬の開発に貢献できると期待される」と、研究グループは述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大