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天気予報の「データ同化」を応用した、新型コロナの感染予測手法を開発-名大ほか

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2021年09月15日 AM10:45

既存の予測モデル、実測データに含まれるノイズの影響を受けやすいなどの問題

名古屋大学は9月14日、入院治療などを要する人数、退院または療養解除の人数、死亡者数といった毎日得られる最新のデータを生かした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染予測を開始したと発表した。この研究は、同大大学院多元数理科学研究科のセルジュ・リシャール特任教授と理化学研究所(理研)計算科学研究センターデータ同化研究チームの三好建正チームリーダー、キウェン・ソン大学院生リサーチ・アソシエイトらの共同研究グループによるものだ。予測データは、理研のデータ同化研究チームのCOVID-19感染予測ウェブページで公開されている。


画像はリリースより

COVID-19の感染拡大が続いている。2021年夏頃からは、いわゆる「第5波」と呼ばれる流行が始まり、東京都では7月12日から4回目の緊急事態宣言が発令されている。こうした中、COVID-19の感染拡大が今後どのように推移するかを予測することで、早期に感染拡大の兆候を捉えて未然に防止し、あるいは予測される感染拡大に備えて事前に先手を打つ対応が重要である。

これまで感染症の予測には、数理モデルが用いられてきた。感染症モデルとしては、SIRモデルがよく知られており、COVID-19だけでなく、過去のさまざまな感染症に応用され、その有効性が確認されている。感染拡大には、1人の感染者が何人に感染させたかを示す「」が良い指標となり、これが1より大きいと感染拡大、小さいと感染縮小に対応する。しかし、実効再生産数は直接知ることができないため、主に実測データを使って推定し、この推定値に基づいてSIRモデルによる予測が行われてきた。この際、実測データに含まれるノイズの影響を受けやすいなどの問題があった。

天気予報で使われるデータ同化手法「アンサンブルカルマンフィルタ」を適用

数理モデルを使った予測では、これまで、スーパーコンピュータを使った天気予報が高度に発展してきた。実測データと数理モデルを結び付ける「データ同化」が要となり、予測の精度が向上してきた。データ同化は、統計数理と力学系理論に基づいた高度な方法で、データに含まれるノイズの影響を緩和するなど、数理モデルと実測データを使った感染症予測にも有効であると期待されているが、これまで感染症の予測での応用例は限られていた。

研究グループは今回、データ同化の方法をCOVID-19の感染予測に応用し、数理モデルと実測データを最適に結び付けた予測を実現した。実測データには、毎日得られる3つのデータ(入院治療などを要する人の数、退院または療養解除となった人の数、死亡者数)を使用。また数理モデルには、SIRモデルをCOVID-19の特徴に合わせて独自に拡張した「拡張SIRモデル」を新たに構築した。これらに、天気予報で使われる「アンサンブルカルマンフィルタ」という高度なデータ同化手法を適用し、融合した。アンサンブルカルマンフィルタを使うことで、推定誤差を含めた幅を持った推定を行うことができる。

開発した手法で実効再生産数を推定、過去の緊急事態宣言の期間に対応して減少

以上のデータ同化から、まず実効再生産数(信頼区間68%)を推定した。全国のデータを使った結果では、過去3回東京都に出された緊急事態宣言の期間(1回目:2020/4/7~5/25、2回目:2021/1/8~3/21、3回目:2021/4/25~6/20)に対応して、実効再生産数が減少し、感染抑制効果が確認された。また、緊急事態宣言の回数を重ねるにつれ、その効果が小さくなっていくこともわかった。さらに現在東京都で発令中の緊急事態宣言期間(2021/7/12から継続中)においては、8月8日をピークに実効再生産数が減少し始め、感染抑制効果を確認した。

次に、過去3回の東京都における緊急事態宣言期間での実効再生産数の減少率に対応した将来予測シナリオを計算した。感染抑制効果がない場合として、実効再生産数が最新の推定値のまま変化せずに推移する予測シナリオも考慮した。以上の4つの予測シナリオに基づき、拡張SIRモデルにより入院治療などを要する人数の将来の推移を予測した。過去の緊急事態宣言期間の感染抑制効果に対応した予測データを相互比較することで、感染抑制効果が今後の推移に与える影響をイメージしやすいという。

ワクチン接種の効果、人流などを考慮した感染対策に期待

天気予報の要となるデータ同化を応用することで、天気予報と同様の仕組みで数理モデルと実測データを最適に結び付け、ウイルス感染の高精度予測を行うことが可能となった。「今後、現在の拡張SIRモデルでは考慮されていないワクチン接種の効果や、複数の地域間の人の往来の効果、人流・気温といった感染のしやすさに影響を与える要因などを取り入れた、より精緻な数理モデルを考慮し、これと実測データを最適に結び付けるデータ同化によって、感染抑制効果の原因解明や、状況に応じた効果的な感染抑制策の提案など、実際の新型コロナウイルスの感染対策に役立てられることが期待される」と、研究グループは述べている。

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