核酸医薬の肝細胞送達に使われている生分解性LNP、免疫細胞にも送達可能?
横浜市立大学は9月13日、生分解性脂質ナノ粒子(LNP)を用いたマクロファージへの核酸送達による転写因子IRF5発現の抑制により、肝炎の発症を抑制できることをマウスの実験で明らかにしたと発表した。この研究は、同大大学院医学研究科免疫学の川瀬航大学院生、黒滝大翼講師(現 熊本大学特任准教授)、田村智彦教授ら、エーザイ株式会社、東京大学の研究グループによるもの。研究成果は、「Molecular Therapy-Nucleic Acids」に掲載されている。
画像はリリースより
核酸医薬は、低分子化合物や抗体では標的とすることが困難な分子を特異的に抑制できる可能性があり、目的のタンパク質を新たに作り出すことができることから、世界中で研究開発が進められている。核酸医薬の実現には、RNAなどの核酸を安定的に目的の場所へ送達する物質の開発が必須だ。
LNPは、核酸を細胞内に送達することが可能な微粒子製剤の1つ。2018年に米国食品医薬品局に承認された世界第一号となるRNA干渉治療薬や、最近では新型コロナウイルスに対するmRNAワクチンにも採用されており、注目を集めている。
2017年にエーザイ株式会社では、低毒性かつ効率的に核酸を内包可能な生分解性LNPを開発。生分解性LNPは肝細胞に核酸を送達できることが明らかにされていたが、免疫細胞に対する生分解性LNPの効果は十分に解析されていなかった。
マクロファージに効率よくsiRNAを伝達、7日以上遺伝子発現抑制効果が持続
まず、今回の研究では、生分解性LNPがどのような免疫細胞に取り込まれるのか詳しく解析した。その結果、マクロファージ、特に肝臓に存在するマクロファージが生分解性LNPをよく取り込むことが判明。一方で、リンパ球や顆粒球などほかの免疫細胞へはほとんど取り込まれなかった。
次に、生分解性LNPを送達物質として用いることで、マクロファージに発現する遺伝子の発現を抑制できるかについて評価。マクロファージは、炎症性疾患の増悪化に関与することが知られている。そこで、生分解性LNPに内包させるsiRNAの標的分子として、マクロファージで強く発現し、炎症の誘導に重要な転写因子IRF5を選択。IRF5に対するsiRNAを内包した生分解性LNP(siIrf5-LNP)をマウスに投与したところ、肝臓などさまざまな臓器のマクロファージにおいてIRF5の発現が7日間以上抑制されることがわかった。
以上の結果は、生分解性LNPをsiRNAの送達物質として利用することで、組織に存在するマクロファージにおいて長期的に遺伝子発現を抑制できることを示している。
siIrf5-LNP投与で炎症性サイトカイン産生減少、肝障害を抑制
続いて、炎症性疾患における生分解性LNPの有用性を調べるために、肝臓に存在するマクロファージが疾患発症に重要な役割を果たすことが知られている、レクチンの一種であるコンカナバリンA投与マウス肝炎モデルを用いて評価した。
まず、IRF5遺伝子を欠損したマウスでは肝障害が改善されることを明らかになった。これは、IRF5が肝炎における治療標的となることを示している。
次に、siIrf5-LNPを投与したところ、炎症を引き起こす物質であるTNFやIL-6といった炎症性サイトカインの産生が減少し、肝障害が抑制されることが明らかになった。
新たな炎症性疾患治療につながる可能性
今回の研究から、生分解性LNPを用いたsiRNAのマクロファージへの送達が炎症性疾患の治療のための有効な手段になる可能性が示された。また、生分解性LNPは生体内におけるマクロファージの機能を調べる研究にも有用と考えられるという。
今後は、生分解性LNPの取り込み効率のさらなる改善等を行い、新たな治療法開発へつなげていきたい、と研究グループは述べている。
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