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ALS、原因遺伝子産物による毒性獲得メカニズムの一端を解明-東京医大ほか

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2021年09月14日 AM11:00

ALSで見られる「ポリPR」はどのように神経細胞毒性を獲得するのか?

東京医科大学は9月10日、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の主要な原因遺伝子である変異型C9orf72遺伝子から産生されるジペプチドが液液相分離を促進することで種々のタンパク質を捕獲し機能を抑制することで細胞毒性を持つ機構を示したと発表した。この研究は、同大分子病理学分野の黒田雅彦主任教授と金蔵孝介講師、同大医学総合研究所低侵襲医療開発総合センターの杉本昌弘教授、がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣プロジェクトリーダー、国立成育医療研究センター分子内分泌研究部の鳴海覚志室長、東京工業大学物質理工学院の早水裕平准教授と博士後期課程Chen Chen大学院生らの研究グループによるもの。研究成果は、「Journal of Cell Biology」のオンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

ALSは進行性に運動神経細胞が変性し、身体の自由が効かなくなる神経難病。人工呼吸器を着けない場合、診断後の平均生存期間は2~5年と短く、また治療薬もリルゾールやエダラボンなどが臨床現場で使用されているが、原因の解明と根本的治療法の開発が望まれている。

C9orf72遺伝子は2011年に発見されたALSおよび前頭側頭葉型認知症の原因遺伝子で、家族歴を持つALS患者の4割が同遺伝子の変異を持つとされている。ALS患者で見られる変異は全て同じタイプであり、イントロン1に含まれる(GGGGCC)の6塩基繰り返し配列が異常に伸長する変異が見られる。(GGGGCC)配列延長により、なぜALSが起こるかの詳細はいまだ不明だが、リピート長依存性開始コドン非依存性翻訳と呼ばれる特殊なタンパク質翻訳機構によりポリPR(プロリンとアルギニンの繰り返し配列)を含むジペプチドが産生され、これらのペプチドが毒性を持つことから、ALSの発症につながると考えられるようになってきた。しかし、なぜポリPRという単純な構造を持つペプチドが毒性を獲得するかは不明のままだった。そこで今回、研究グループは、なぜポリPRが細胞毒性を獲得するのかの分子機構を解明し、ALS治療法開発へつながることを目指し、研究を行った。

ポリPRは、アルギニンが交互に並ぶと翻訳障害毒性を示す

研究グループはまず、無細胞翻訳系およびヒト培養細胞を用いた解析により、プロリンとアルギニンが交互に存在する場合はタンパク質翻訳を抑制するが、プロリンとアルギニンを連続させた構造では翻訳抑制効果が失われることを発見した。またポリPRが結合し、機能を阻害することが知られている核小体タンパク質NPM1への作用もアルギニンの位置に依存することを明らかにした。すなわち、ポリPRの毒性はペプチド内のアルギニンが交互に位置することで発生することが判明した。

ポリPRは酸性アミノ酸リッチなタンパク質と相互作用しやすい

次に、アルギニンが交互に位置することでなぜ毒性を獲得するのかを明らかにするために、ポリPRと結合してくるタンパク質を、種類と量の両方を測定できる定量的プロテオミクス法により解析した。すると、得られた2,000近くの結合タンパク質のほとんどは無害なペプチドであるポリアルギニン(R12)の結合タンパク質と共通するものだったが、結合してくる量が数百倍以上増えているタンパク質が多数見つかった。これらのタンパク質に共通する性質を探したところ、酸性アミノ酸であるアスパラギン酸とグルタミン酸を非常に多く含むものが含まれることがわかった。また、結合する量が増えたタンパク質とポリPRは液液相分離と呼ばれる現象(2種類の水溶液を混合した際にあたかも水と油のように2つの液相に分離する現象)を起こすこともわかった。

ポリPRによる多数分子との緩やかな結合は、液液相分離に適している

最後に、アルギニンが交互に位置する場合と連続して位置する場合で結合エネルギーに違いがあるのかについて検討を行うため、東京工業大学が所有するスーパーコンピューターTSUBAMEを用いた分子動力学計算を実施。その結果、アルギニンが交互に位置する構造は結合エネルギーには不利であることがわかった。FRAP法でもポリPRの結合力は連続するアルギニンと比較して弱いと判明。この弱い結合力のおかげで少ない分子と強く結合するのではなく、多数の分子と緩やかな結合を形成し、液液相分離を起こすのに適していることがわかった。

ポリPRが酸性分子と液液相分離しターゲット分子の機能を抑制、毒性発揮の可能性

今回の研究により、変異型C9orf72から産生されるポリPRジペプチドが酸性タンパク質と液液相分離を促進することで細胞毒性を発揮することが示唆された。今回の研究結果をもとに、研究グループはポリPRによる液液相分離を調節できる小化合物スクリーニングを計画しており、新たなALSの創薬ターゲットの同定につながる可能性が期待できる。

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