医療従事者の為の最新医療ニュースや様々な情報・ツールを提供する医療総合サイト

QLifePro > 医療ニュース > 医療 > 原発性骨髄線維症、病態悪化の新たな分子メカニズムを発見-東大医科研ほか

原発性骨髄線維症、病態悪化の新たな分子メカニズムを発見-東大医科研ほか

読了時間:約 2分49秒
このエントリーをはてなブックマークに追加
2021年09月10日 AM11:15

2と従来型PRC1複合体の機能不全は病態増悪に関与、異性型PRC1は?

(東大医科研)は9月9日、異性型Polycomb repressive complex 1(PRC1)複合体の機能不全も骨髄線維症の病態を促進させることを明らかにしたと発表した。この研究は、東大医科研幹細胞分子医学分野の篠田大輔特任研究員、岩間厚志教授らの研究グループがは、熊本大学の指田吾郎教授や理化学研究所の古関明彦グループリーダーとの共同研究として行ったもの。研究成果は、「Leukemia」オンライン版に掲載されている。


画像はリリースより

原発性骨髄線維症は、骨髄増殖性腫瘍の一つで、造血幹細胞に生じた遺伝子異常により骨髄中の血液細胞が腫瘍化して増殖し、骨髄の線維化と造血障害を生じる血液がん。原発性骨髄線維症は比較的まれな疾患であり、主に中高年層に発症し、予後不良であることが知られている。原発性骨髄線維症についても次世代シーケンサーによる網羅的解析が進み、骨髄増殖性腫瘍に特異的なドライバー変異に加えて、エピゲノム因子やRNAスプライシング調節因子の遺伝子変異が報告されている。エピゲノム関連遺伝子としては、ASXL1やEZH2の変異が報告されている。

東大医科研幹細胞分子医学分野の研究グループは、ヒストン修飾複合体で遺伝子発現を抑制するポリコーム抑制性複合体の中で、PRC2および従来型PRC1複合体の機能不全が、原発性骨髄線維症の病態の増悪に関与することを報告してきた。しかしながら、異性型PRC1複合体の原発性骨髄線維症への関与は明らかにされていなかった。そこで今回、研究グループは、異性型PRC1の一つであるPRC1.1の骨髄線維症の病態における役割を解明することを目的に研究を行った。

PRC1.1の標的「HoxA遺伝子群」の発現抑制解除で骨髄線維化促進とマウスで判明

まず、原発性骨髄線維症のドライバー変異の一つであるJAK2遺伝子変異体を発現し、PRC1.1の構成因子Pcgf1遺伝子を欠損するマウスを作成して骨髄移植を行い、移植後マウスを解析。すると、二重変異マウスは単変異マウスや野生型マウスに比較して有意に生存期間が短縮し、骨髄ならびに脾臓では著明な線維化の進行が確認された。また、二重変異マウスは貧血や血小板減少症を呈するとともに、骨髄球系への分化の促進が認められた。一方で、PRC2機能不全骨髄線維症モデルマウスで認められた巨核球系の増殖は認められず、異なる表現型を有していた。

次に、同マウスモデルにおいて骨髄線維化を促進するメカニズムを解明するために、骨髄移植後マウスから造血幹前駆細胞を採取してRNAシークエンス解析、ChIPシークエンス解析を行った。結果、二重変異マウスの造血幹前駆細胞において、骨髄球分化に関連する遺伝子群の発現増強とヒストンH2A119番目のリジンのモノユビキチン化の低下が認められた。標的遺伝子としてHoxA遺伝子群(9など)が同定され、Pcgf1欠失によるHoxA遺伝子群の発現亢進が確認された。

そこで、造血幹前駆細胞の培養を行ったところ、Pcgf1欠失によるHoxA9の発現亢進がJAK2遺伝子変異造血幹・前駆細胞の増殖能を増強し、骨髄球系への分化促進を引き起こしていることが確認された。さらに、Hoxa9を強制発現させたJAK2遺伝子変異造血幹前駆細胞を移植したところ、早期に骨髄線維化を誘導することが示された。

PRC1.1はPRC2複合体とは異なる機序で骨髄線維化に関与

最後に、JAK2遺伝子変異を持つ骨髄線維症における異性型PRC1とPRC2の機能の差異を評価するために、JAK2遺伝子変異/Pcgf1欠損マウスとJAK2遺伝子変異/Ezh2欠損マウスの骨髄細胞の遺伝子発現データーを比較したところ、標的遺伝子が大きく異なることが明らかになり、異性型PRC1とPRC2の機能不全は、異なるメカニズムでJAK2変異マウスの骨髄線維症を促進することが示唆された。

今回の研究において解析したPCGF1遺伝子の変異は骨髄線維症で報告されていないが、骨髄線維症で変異の頻度が多いASXL1遺伝子変異は、Pcgf1欠損と同様に、ヒストンH2A119番目のリジンのモノユビキチン化の低下やHoxA遺伝子群の発現増強など、同モデルと共通した特徴が知られている。こうしたことから、研究グループは「今回のPcgf1欠損マウスによる骨髄線維症モデルはASXL1遺伝子変異による病態を模倣している可能性があり、同モデルで明らかになった知見が骨髄線維症の病態解明に寄与することが期待される」と、述べている。

このエントリーをはてなブックマークに追加
 

同じカテゴリーの記事 医療

  • 血液中アンフィレグリンが心房細動の機能的バイオマーカーとなる可能性-神戸大ほか
  • 腎臓の過剰ろ過、加齢を考慮して判断する新たな数式を定義-大阪公立大
  • 超希少難治性疾患のHGPS、核膜修復の遅延をロナファルニブが改善-科学大ほか
  • 運動後の起立性低血圧、水分摂取で軽減の可能性-杏林大
  • ALS、オリゴデンドロサイト異常がマウスの運動障害を惹起-名大