助成金以外でワクチン接種率の向上につながる方法は?
新潟大学は9月6日、約18万人の65歳以上の高齢者を対象に調査し、「ソーシャルキャピタル」がある高齢者では、肺炎球菌の予防接種を受けている人が多いことが明らかになったと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科国際保健学分野の齋藤孔良助教、菖蒲川由郷特任教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMJ Open」に掲載されている。
画像はリリースより
肺炎は日本を含む世界中で高齢者の死因の上位を占める。肺炎球菌は世界で最も多くの肺炎を起こしている菌だ。そのため、世界の多くの国々で高齢者の肺炎球菌ワクチンの接種に対する助成が行われています。しかし、日本では各自治体で肺炎球菌ワクチンの助成金の金額が異なり、このことが各自治体でワクチン接種率が大きく異なる原因になっており、助成金以外でワクチン接種率の向上につなげる方法を見つけることは重要な課題となっている。
社会参加、社会的結束、互酬性、3つのソーシャルキャピタルを評価
今回研究グループは「ソーシャルキャピタル」がある高齢者には肺炎球菌予防接種を受けている人が多いかを調べるため、一般社団法人日本老年学的評価研究機構(JAGES:Japan Gerontological Evaluation Study)が、2016年10月~2017年1月の期間に行った約18万人の要介護認定を受けていない65歳以上の高齢者の健康と暮らしに関するアンケート調査データを統計解析した。調査対象者に対して、過去5年間に肺炎球菌ワクチンの接種を行ったか否かをたずね、ソーシャルキャピタルは社会参加、社会的結束、互酬性の3つの指標を用いて評価した。
「社会参加」は、スポーツ、ボランティア、趣味関係、学習・教養、特技・経験を他者に伝えるグループやサークルへの参加を月1回以上行っているか否かで調べた。「社会的結束」は、地域の人々を信用または信頼できるか、地域に愛着をもっているかという質問に、「とてもそう」または「まあそう」と答えたか否かで評価。「互酬性」は、心配事や愚痴を聞いてあげる人がいるか、心配事や愚痴を聞いてくれる人がいるか、病気で数日間寝込んだときに看病や世話をしてくれる人がいるかという3つの質問のいずれかに「はい」と答えたか否かで調べた。
地域のソーシャルキャピタルは、各小学校区または中学校区における高齢者の社会参加、社会的結束、互酬性の平均値とし、平均値が1標準偏差以上の場合を社会参加、社会的結束、互酬性が「豊かな地域」、−1標準偏差以下の場合は「少ない地域」、−1標準偏差より大きく+1標準偏差以下の場合を「標準的な地域」とした。
さらに、社会参加、社会的結束、互酬性以外で肺炎球菌予防接種に関係する可能性のある年齢、性、教育年数、所得、家族構成、婚姻状況、最も長く就いた仕事の種類、地域の違い、各自治体の政策の違いの影響を統計学的な方法で除去。地域の社会参加、社会的結束、互酬性が高齢者個人の肺炎球菌予防接種に与える影響を調べるために、個人の社会参加、社会的結束、互酬性の影響も統計学的に取り除いた。
3つのソーシャルキャピタルがある高齢者で肺炎球菌予防接種率が高い
統計解析の結果、社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルがある高齢者は、それらのソーシャルキャピタルがない高齢者と比べて、肺炎球菌予防接種を受けている人がそれぞれ13%、5%、34%多いことが明らかになった。また、個人的な社会参加があるかどうかに関わらず、社会参加の豊かな地域に住んでいる高齢者は、社会参加が標準的な地域に比べ、肺炎球菌予防接種を受けている人が3%多いことも明らかになった。
社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルのどれかがあることが予防接種につながる可能性がある。個人的な社会参加があるかどうかに関わらず、社会参加の多い地域に住むだけで予防接種につながる可能性がある。また、個人または地域の社会参加、個人の社会的結束、互酬性を培うことが高齢者の予防接種率を向上させる可能性もあるという。
「今後は社会参加、社会的結束、互酬性の3つのソーシャルキャピタルがある高齢者や社会参加が豊かな地域ではなぜ予防接種を受けている高齢者が多いのかを明らかにする予定だ。また、新型コロナの予防接種でも同様の研究を行う予定だ」と、研究グループは述べている。
▼関連リンク
・新潟大学 プレスリリース