出産のために急性期病院に入院の先天性心疾患・女性の有害事象を調査
横浜市立大学は9月6日、診断群分類(Diagnosis Procedure Combination:DPC)データベースを利用した解析により、先天性心疾患の女性について、入院中の死亡例はなく、大きな心臓合併症も起きていないことを明らかにしたと発表した。この研究は、同大附属病院循環器内科の仁田学医師(同学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻在籍)、同大学院データサイエンス研究科の金子惇講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「BMC Cardiovascular Disorders」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
なお、同研究は同大附属病院の現役医師が、同学データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻に入学し、データサイエンスを学ぶことで、医療現場の課題に対して、データからのアプローチとして解析を行ったことによる研究成果だとしている。
医療の進歩に伴い、以前は救命が困難だった、多くの先天性心疾患児の命が助かるようになってきた。現在では、先天性心疾患児の9割以上が成人期に到達すると考えられている。こうした患者は、成人先天性心疾患と呼ばれる。
成人先天性心疾患の患者数が増加する一方で、専門医や専門医療機関が十分に整備されていないという問題がある。さらに、成人期に到達した女性の場合、安全に妊娠・出産することが可能かどうかという問題もある。健常な女性であっても妊娠中の循環血液量の増加や、出産時の陣痛やいきみにより心臓への負荷が高まる。先天性心疾患を有する女性の場合では、健常女性と比べ心臓の予備能力が低下しているため、妊娠・出産に際しては、心不全や不整脈、血栓塞栓症を発症させる、あるいは増悪させる危険が高いと言える。
これまで、国内ではいくつかの施設から先天性心疾患を有する女性の妊娠や出産に際しての有害事象について報告がなされてきた。しかし、それらはいずれも少数施設の少数例を対象としたものであり、国内全体を網羅するような調査は行われていなかった。そこで、研究グループは国内の急性期病院の大部分を網羅するデータベースを用いて、出産のために急性期病院に入院した先天性心疾患を有する女性の有害事象を調査した。
対象249例、先天性心疾患の複雑度・中等〜重症が約40%
DPCデータベースを利用して2017年4月~2018年3月までの1年間に国内の急性期病院に入院し、出産した先天性心疾患を持つ女性を同定し、データを解析。その結果、出産に際しての入院中に死亡例はなく、大きな心臓合併症(補助人工心肺や大動脈内バルーンポンプを使用するような心不全・循環不全、電気的除細動やペースメーカ、静注抗不整脈薬を要する不整脈)は起きていないことが明らかとなった。
対象となった先天性心疾患女性は249例で、先天性心疾患の複雑度が中等症〜重症に分類される女性が約40%を占める。
先天性心疾患の複雑度が高くなるに従い、大学病院で出産する女性の割合が高く、先天性心疾患の複雑度が重症に分類される女性の72%が大学病院で出産していることがデータの分析で判明。また、先天性心疾患の複雑度が高くなるに従い、入院日数が長期化することも示された。
妊娠前から専門医・専門施設へコンサルトすることの重要性を示唆
今回の研究は、国内専門病院により適切な患者選択がなされ、妊娠・周産期を通じて適切な管理が行われたことを示すものであり、先天性心疾患女性が妊娠を希望する場合には、妊娠前から専門医・専門施設へコンサルトすることの重要性が示唆された。
同研究で検討することができたのは、急性期病院へ入院した女性のみとなり、将来的には全ての先天性心疾患女性の妊娠・出産に関する実態を明らかにする分析を検討しているという。さらに、同研究では出産まで辿り着くことのできた女性のみを対象としており、心疾患のために妊娠を断念したり、中絶を余儀なくされたり、あるいは流産となった女性の実態については評価できておらず、今後の研究課題だ、と研究グループは述べている。
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・横浜市立大学 プレスリリース