糖尿病網膜症の無血管野描出には、造影剤を用いた蛍光眼底造影検査が必要だった
東京医科歯科大学は9月6日、青波長の走査型レーザー検眼鏡による広角眼底撮影の単一の眼底写真が造影剤を使用せずに、広範囲の眼底の網膜無血管野を高率に検出できることを示したと発表した。この研究は、同大大学院医歯学総合研究科眼科学分野の大野京子教授と先端視覚画像医学講座の堀江真太郎ジョイントリサーチ講座講師の研究グループによるもの。研究成果は、「Asia Pacific Journal of Ophthalmology」にオンライン掲載されている。
画像はリリースより
糖尿病網膜症は糖尿病の3大合併症の一つであり、視覚障害の全国調査でも上位を占める重要な疾患。糖尿病網膜症の進行は、網膜毛細血管の障害と血管からの血液・血漿成分の漏出を主とする病態から、毛細血管床の閉塞(無血管野の形成)へ進行し、さらに無血管野における網膜虚血によって重篤な合併症である網膜血管新生を生じる。
網膜虚血と新生血管を伴う増殖期においては網膜光凝固が必要で、増殖前網膜症の段階で網膜無血管領域を早期に発見し、網膜光凝固することによって増殖網膜症への進行を抑制することが期待できるため、糖尿病網膜症において網膜虚血を発見することは臨床上非常に重要なことであると考えられている。しかし、網膜無血管野を見つけるためにはフルオレセイン蛍光眼底造影検査が必要であり、造影剤の使用が難しい患者がいることやアナフィラキシーショックなど、一定のリスクを伴う問題があった。また近年、造影剤を使用しないOCTアンギオグラフィーもあるが、眼底の周辺部まできれいな画像を得ることは臨床上困難だった。
従来法で検出の網膜無血管野、8割が青波長のレーザー走査型広角眼底画像で確認可能
そこで研究グループは糖尿病網膜症を対象に、赤緑青の3色を有する走査型レーザー検眼鏡(ニデック社ミランテ)の青波長の広角眼底画像を、通常の蛍光眼底造影検査の所見とともに比較検討した。その結果、蛍光眼底造影検査で検出された網膜無血管野の約8割以上は、青波長のレーザー走査型広角眼底画像でも確認できることが示されたとしている。
糖尿病網膜症の進行を示す網膜無血管野を調べるためには蛍光眼底造影検査を行う必要があった。一方で造影剤が使用できない症例や、使用へのリスクなどから、同検査にはハードルがあり、網膜虚血の存在が確認できず治療が遅れてしまう症例なども少なくないと考えられる。
診断精度が向上し、重篤な合併症予防や失明防止に貢献する可能性
今回の研究により、青波長の広角走査型レーザー眼底撮影は造影剤なしで糖尿病網膜症における網膜虚血を高率に検出できることが示された。また、糖尿病網膜症の無血管野の形成は網膜の広範囲に生じるため、広角眼底撮影の単一画像で無血管野を見落とすことなく簡易に検出できる可能性も示唆された。
「この方法は非侵襲的かつ簡易であるため、広く糖尿病網膜症患者の診断精度の向上につながり、新生血管のような重篤な合併症を起こす前に無血管野に対する治療を行えることで、失明防止に貢献すると考えられる」と、研究グループは述べている。
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