C型肝炎で起こる腸内環境の乱れを詳細に調べるため、便中胆汁酸のバランスを解析
熊本大学は9月3日、便中胆汁酸のバランスを解析し、C型肝炎で起こる腸内環境の乱れの原因を解明したと発表した。この研究は、同大大学院生命科学研究部の田中靖人教授、名古屋市立大学大学院医学研究科の井上貴子講師、九州大学大学院農学研究院の中山二郎教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Liver International」電子版に掲載されている。
画像はリリースより
ヒトの腸内には100兆個以上の細菌が住み、「腸内フローラ」と呼ばれる生態系を構成し、健康維持に関与している。腸内細菌は食事や体で作られたものなどを使って、さまざまな代謝物を作り、その一部は腸から吸収され、血流に乗って全身を巡る。そのため乱れた腸内フローラで作られる代謝物は、多様な全身疾患に関係していることが報告されている。
近年、C型肝炎の治療は目覚ましく進歩し、直接作用型抗ウイルス薬の組み合わせでC型肝炎ウイルス(HCV)を排除できるようになった。C型肝炎の治療として、病期が進んだ非代償性肝硬変では、高アンモニア血症・浮腫などの合併症への対応も必要となる。腸は血流の順路から肝臓とつながっているため、非代償性肝硬変では高アンモニア血症の予防・治療のために、抗生剤による腸内フローラの改善が試みられてきた。
研究グループは以前の研究で、病期の異なるC型肝炎患者の腸内フローラを解析し、その特徴と体への影響について検討した。C型肝炎では、病初期から腸内フローラに変化が見られ、病期が進むにつれて腸内フローラを構成する菌種が減り、口腔内常在菌のレンサ球菌属などが増加して、腸内フローラの乱れ(dysbiosis)となることを報告した。さらに、腸管内で増えているレンサ球菌属の細菌は、ウレアーゼ遺伝子を持っていることがわかった。便は病期の進行につれてアルカリ性の傾向を示し、アンモニアの増加が想定された。この結果から、C型肝炎では病期の進行につれて腸内フローラが乱れ、腸管内で異常に増殖した細菌がアンモニアを増加させていると予測した。研究グループは今回、C型肝炎で起こる腸内環境の乱れをより詳細に調べるため、代謝物の一種である便中胆汁酸のバランスを解析し、その特徴を調査した。
C型肝炎患者の胆汁酸代謝酵素発現量、健康な人とは大きく異なる
研究では、健康な人23人、病期の異なるC型肝炎患者100人(肝機能正常HCVキャリア(PNALT)9人、慢性肝炎60人、肝硬変17人、肝がん14人)から便を採取し、液体クロマトグラフィー質量分析法を用いて便中胆汁酸を測定し、そのバランスを比較した。その結果、便中胆汁酸のバランスも病初期から変化し、胆汁酸の一種であるデオキシコール酸が減少し、PNALT、慢性肝炎、肝硬変、肝がんと病期が進むにつれてこの特徴も顕著になることが判明した。
すでに解析が進んでいるNASHでは便中デオキシコール酸が増加することから、C型肝炎とNASHでは逆の現象が起こっていることが明らかになった。さらに、手術や病理解剖から得られた肝組織での胆汁酸代謝酵素の発現量を調べたところ、健常状態(病気を疑って肝組織を調べたところ健常状態と診断された場合)やNASHとC型肝炎では、大きな差が見られたという。C型肝炎では胆汁酸代謝遺伝子HSD3B7やCYP8B1の発現が低下していたが、NASHではHSD3B7やCYP8B1の発現が上昇しており、便中デオキシコール酸量の異常につながっていると予測された。以上のことから、C型肝炎では肝臓での胆汁酸代謝酵素発現異常が原因となり、腸内フローラの異常や便中胆汁酸のバランス異常など腸内環境の乱れが生じていると考えられた。
HCV感染が腸内環境にまで影響を及ぼすことの周知が重要
今回の研究は、C型肝炎の腸内フローラや腸内代謝物の変化を統合して病期別に解析した最初の研究であり、肝組織での胆汁酸代謝酵素の発現異常が原因となってC型肝炎での腸内環境の乱れが起こることが明らかにされた。同成果により、HCVの感染が肝臓だけでなく、腸内環境にまで影響を及ぼしていることが証明された。「この研究成果を医療関係者だけでなく市民に広く知ってもらい、より早期にC型肝炎の治療を受けて欲しいと考えている」と、研究グループは述べている。
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